宇宙の産み落とした私生児

とよかわの西洋占星術について考えるブログ。鑑定依頼は件名「鑑定依頼」でこちらへ→astrotoyokawa@gmail.com

火星に復讐されるということ

 その夜私は不思議な夢を見た。
 驚くべきことに、夢の中の私は知人に向かって、何も恐れずきっぱりと自分の言いたいことを告げていた。
 私はずっと、比喩的な意味で殴られても殴り返せない自分にストレスを感じて精神を病んでいて、そうだと分かっていてすら解決できなくて思い悩んでいた矢先だった。
 驚愕のあまり目が覚めてもしばらく起きずに夢を反芻し、まぼろしの自分のりんかくを何度もなぞった。そのときの気持ちを忘れたくなかった。

 言いたいことを言ってもいいのかもしれない。
 殴り返してもいいのかもしれない。
 そうしてしまうときっと事態は最悪になるとずっと思い込んでいたけど、そうではなくむしろ逆なのかもしれない。不意に勇気づけられた。しかしその日のうちに大きな事件が起こった。
 私を前々から嫌っている女性が、私の住んでいる山谷のドヤのシェアキッチンで、笑顔で公然と私を侮辱したのだった。

 私は、自分は火星に復讐されたのだと感じた。

 私は出生図で12ハウス、別名「幽閉の部屋」に火星を持っている。
 12ハウスの火星について本で調べるとこうある。

 松村潔「完全マスター占星術
 攻撃心やエゴを抑圧することで、その衝動は人生のほかの部分に転移し、思わぬトラブルに巻き込まれる傾向がある。ネット活動や隠れたところで攻撃性が発揮されやすい。自身の攻撃性について自覚する必要がある。未調整の意志であれば、絶えずさまざまな潜在下の衝動に振り回される。ボランティアなどに熱中するとよい。

 ルル・ラブア「新装版・占星学」
 本人の短気な性格や激烈な感情が自分自身の敵となることを示します。敵対関係にある人から迫害されたり危難に遇うこともありがちです。しかし、この火星位置は、この生れの人がこのような危険にもかかわらず、剣のような鋭さで困難を切り抜けていくことを示します。吉座相があれば、優れた経営管理の能力を生かすことによって成功を得るでしょう。凶座相があれば、夜間の難や自分自身の過失による負傷に注意が必要です。他人に対する同情と克己心を持つことが大切です。

 この世界にマクロコスモスがあるのと同じように、人間の体のなかにもミクロコスモスがあるというのが占星学の基本の大前提である。ひとりの人間のなかにも太陽系がある。空に火星があるように体内にも火星があり、おもに攻撃性や積極性といった男性原理部分をはじめ、さまざまな役割を果たしている。それは誰ひとりとして例外はなく、あるひとつの天体の存在感が全く欠けた人生を送ることは出来ない。
 にも関わらず、その星の力や役割を抑圧するとどうなるかというと、星は存在感をとりもどすために、外部からやってくることになる。これが松村の言葉で言う人生に転移するという現象である。

 出生図は基本的にその人自身の特徴や、たどる人生をあらわしているが、この転移現象が起きた場合、部分的に自分以外の人間をさすことがある。
 そのいちばん代表的な例をあげると、女性にとっての太陽サイン(大衆的な星占いでいう"星座")である。太陽サインは社会的な自己実現をさすが、多くの国、地域では女性のそれは激しく制限を受けているので、しばしば夫または息子、娘に転移する。つまり、太陽サインがおひつじの女性が、本人は全くおひつじぽくないが、夫の人物像をうかがうと非常によくあてはまるということがしばしば、特に専業主婦にある。
 あるいはもうひとつ興味深いのは、ユングのある女性患者のエピソードである。彼女は母親へのコンプレックス(複合感情。激しく嫌悪しながら執着せずにはいられない、相反する状態)に悩まされていた。そこでユングが彼女の出生図を計算してみると、その図からうかがえる人物像は、彼女自身よりも、むしろ彼女の執着する母親を正確に引き写したものだった…という、何やら不気味な話である。
 
 次に、12ハウスの象意の話をします。
 12ハウスの支配サインはうおサイン、支配星は海王星。一般的にこのハウスは、病院や収容所から深層意識まで、隠れた場所すべてをあらわし、このハウスに入った星はその力を隠され抑圧される。ところが上に記したように占星学の考えでは星を抑圧すればするほど、強調された形で外部からやってくる。
 人の心はよく海にたとえられるが、私も12ハウスに入った天体を、海の底に沈められた星にたとえたい。
 海底にある星は一見、地上からは見えない。しかし、地球上のすべての海はつながっているように、心の海も人とつながっているので、星を海のなかに隠すとそのエネルギーが海水を媒体に、人への強い影響力、感染力、共鳴力をもつ。うおサインも海王星も、自他の境界線の融解による自己消滅、自己埋没をあらわすからだ。(松村は、ネット活動で攻撃性が発揮されやすいと書いたが、インターネットも、世界じゅうとつながっているという意味では、まるで海である。)
 火星を抑圧しがちな私は、そのせいで他人の火星を刺激し誘発させる。
 私がよく人から嗜虐性をぶつけられるのはこのせいだろうと、その状態を、火星に復讐されたと、感じたのだった。私の体内の火星をないがしろにしてしまった、無理やりにおさえこんでしまったしっぺ返しのようなものなのだと。

 私の火星はさそりサインにある。冥王星の発見前までは火星はさそりの支配星で現在も副支配星の位置づけであり、品位の高さによって強調されている。アスペクトもソフト・ハード両方ある。つまりもともと火星の強い生まれだ。(そして水のサインは他人との融合性を表し、特にさそりサインは生まれ変わるようなメタモルフォーゼが象意のひとつなので、12サインに入ったときの人への影響力は激烈なものになるだろう)
 12ハウスではないが、同じさそりサインに冥王星土星もある世代。
 火星の支配するサインはもうひとつおひつじもあるが、私はここに水星がある。
 つまり私の場合火星の力を抑圧することによって、支配星からサインにエネルギーが流れなくなり、冥王星土星、水星も萎縮すると解釈しているし、実際そのような実感がある。
 言いたいことが言えない、攻撃に対して攻撃で返せない、そんなときに私は決まって極端なうつ状態に陥る。冥王星の覇気も、土星の自分を律する力も、水星のコミュニケーション力もすべてどこかに消えうせてしまう。

 さて、冒頭のエピソードに戻る。
 公然と侮辱された私は、きちんと抗議をしたが、それはその場の笑いに換えられて、流されてしまった。しかし私の激しい怒りを感じ取っていた人もいた。
 そして翌日、私は何ひとつわざとやってはいないけど、住む場所から救急搬送されて、病院で治療を受けた。その遠因がくだんの女性の侮辱であるのは、なにしろ噂がまわるのが早い共同住宅なので、かなりの速度で広まり、彼女は評判を落とす結果になってしまった。

 火星は悪い象意だけではなく、自己主張、自己表現意欲、やる気、勇気、戦意などもあらわす。私はそういうものも人に与えることが出来ているのだろうか、と思う。
 私が私であることにうんざりし、私をやめたくなることなんて、しょっちゅうだ。でも私の最大の強みと価値は、他の何でもなく、私であること、だと思う。それは誰にとっても同じことだ。占星学的見地から言えば、同じ出生図の人間は、ひとりとして居ない。だから私は、占星学をあらゆる人間に個別性を見出し、力強く価値を肯定するものだととらえているのである。

 追記
 あとから調べてみたら、私が救急搬送された日、出生図のリリスにトランジットのリリスが合、つまりいわばリリスリターンの状態だったので、結構驚いた。そして私はその事件から急に体調を取り戻し、しばらくの間だけだろうが、現在はうつ状態からは脱している。