宇宙の産み落とした私生児

とよかわの西洋占星術について考えるブログ。鑑定依頼は件名「鑑定依頼」でこちらへ→astrotoyokawa@gmail.com

「アガスティアの葉の秘密」を読んだ

 今回は古い本の書評です。占星術そのものの書籍ではありませんが、深く占星術に関係しているので、このブログでとりあげます。

 「アガスティアの葉の秘密」パンタ笛吹・真弓香共著 たま出版 初版1995年5月

 まず、「アガスティアの葉」について説明します。これはインドの聖アガスティアなる聖人が3000年ほど前に書いたといわれる葉で、アカシック・レコードのように人間の一生のすべてが記載されている、とされています。
 全人類ですと膨大な量になるので、アガスティアの葉を見に来る運命にある人の分しかないそうです。
 保管管理人に自分のアガスティアの葉を見つけてもらった人は、自分の名はおろか両親の名前、生年月日、結婚する時期や子供の数、寿命まで記されていて、大変驚いたそうです。

 これを90年代初頭に、青山圭秀という人が「理性のゆらぎ」「アガスティアの葉」という書籍でサイババの存在とともに日本に紹介。この本は当時大ベストセラーになり大きな話題になりました。(私も10代半ばに同書を読みました。ちなみに私が「アガスティア」という言葉を知ったのは、ゲームの「女神異聞録ペルソナ」でした)

 さて、当時の多くのニューエイジっ子、オカルト大好きっ子と同じく、このサイババアガスティアの葉に深く興味を持ったのが、著書のふたりです。

 パンタ笛吹氏はアメリカで寿司バーを経営する青年実業家。リアルガチのヒッピーでこの名前はヒッピーネーム(って何?)だそうで、精神世界どっぷり、神秘体験多数。
 真弓香氏はニューヨーク在住の占星学研究家。アストロ・カート・グラフィの日本人初の有資格者で、これについては詳しく後述します。

 この本についてはアガスティアの葉のトリックのデバンキング(暴露)をしているという予備知識しか知らなかったので、著書のひとりが占星術家だと分かったときには、驚きました。内容も占星術の知識がないと理解しがたい箇所があるので、学んでいて良かったです。

 本書は、笛吹氏と真弓氏が交互に1章ずつ執筆する構成となっています。二人が知人の紹介で知り合い、二人でインドに向かいあこがれのサイババと邂逅、そして本丸アガスティアの葉の館に行き自分の人生の物語を読んでもらうまでの旅行エッセイのようになっています。
 真弓氏の人生や来歴はかなり面白いのですが、笛吹氏パートは元ヒッピーおじさんが躁的な文体で過去に流行した神秘体験の数々を武勇伝仕立てで自慢しまくし立てているのが殆どで、おっさんうざいなという感想しかなく途中飛ばしてしまいました。
 経済的に成功する男性企業家って端から見ると躁病にしか見えない事多々なのでまぁ元々こんなおっさんなんかな。と思いましたがなんと!
 この繰りごとみたいなウザいハイテンション文体は伏線だったのです。
 この文章は、アガスティアの葉がまごうかたなきサギであったことを知り、ショックで風邪が悪化し高熱にうかされた状態で書いたことが最後に明かされるからです。

 アガスティアの葉のトリックはこうです。
 二人がそれぞれガイドを頼ってアガスティアの館に行き、葉を読んでくれるナディ・リーダーに自分の葉を探してもらいます。
 その時、葉の特定のために膨大な質問をされ、イエスかノーで答えます。両親は生きてますか。35歳以下ですか。お母さんの名前の最初の音はサ、ザ、タ、カ、ガの中の一つですか。兄は一人ですか。自分の生まれた国で生きていますか。
 37を過ぎたか(イエス)40を過ぎたか(イエス)44を過ぎたか(ノー)1953年か1954年生まれか?
 あなたの名前は4音か(ノー)3音か(イエス)最初の音はアカサタナハマヤラワに入っているか(イエス)最初の音はマミムメモに入っているか(イエス)…
 このような質問を何十と繰り返すと、名前や年は消去法を使えばかんたんに絞り込めてしまうのです。
 さらに、館に連れてきてくれたガイドも、実は詐欺に1枚噛んでいる仕掛け人。彼が「発音を確認するために両親の名前を書いてくれ」と紙に書かせる。自分の葉がなかなか見つからず時間がかなりたつので、彼がしきりにトイレをすすめる。どうもその間に名前を書いた紙がガイドからリーダーの手にわたっており、その後リーダーが両親の名前を言い当て、カモがびっくりしてアガスティアの神秘を信じてしまうという寸法である。
 アガスティアの葉を探してもらうだけで、1万円という、日本人にとってはささやかであるがインド人にとっては月給の倍もする値段を取られる。それにくわえて彼らは葉を読むふりをしながら、あなたのこれからの人生は数々の不幸が待ち受けているが、カルマを落とすためにお布施をして、タリスマン(護符)を買えば不幸から身を守れると大言壮語し、それぞれが1万7000円とか、6万円もの料金がかかる。
 ところが二人はアガスティアの葉に人生を言い当てられた驚きに大喜びし、真弓氏にいたっては6万円のお布施を払ってしまう。

 カラクリを知ってしまえば単純きわまりない話である。しかし、笛吹氏は同書の中で何度も、
「あの東大出のドクター青山のお墨付きなのだから」
 といった言葉を連呼する。
 もう何回この本で東大出という言葉が出てきたかわからない。
 青山圭秀は東大出で医学、理学のダブル博士号持ちの秀才で、しかもほんのりイケメンという、社会のヒエラルキーの頂点に立っている人である。
 ニューエイジ思想って物質社会や資本主義経済へのカウンターカルチャーなのに、ガチヒッピーすらこんな既存社会の権威に弱いんだからなさけない。
 しかし、青山圭秀が東大出の博士だったからこそ、その言葉を信じて多くの人間がアガスティアの館に殺到したのである。

 アガスティアの葉は本物だった! 二人は熱狂しながらも、どこかすっきりしないものを感じている。ガイドに両親の名前を書かされたことである。こちらがしぶっても書くよう強く要求されたので根負けしてしまったが、何かアヤシイと勘づいてはいたのだ。
 
 実はアガスティアの葉の館は、支店のようにいくつもあり、それぞれ大人気で予約もなかなか取れない。もうアガスティアの里でたまたま自分の葉を見つけた笛吹氏だが、別の館にも予約を取っており、「もう葉は見つけたけど、瞑想の方法を教えてもらおう」と館に出向く。
 しかし葉を探すよう誘導され、もう自分の葉はないのにとおかしいと感じつつも質問に応じていると、なんと2枚目の葉が見つかってしまう。読まれた人生の物語は全く違うが、結びはやはり「カルマを落としたいなら大金を払って、お布施とタリスマン」。
 こうして全くの偶然で笛吹氏はペテンを確信する。
 真弓氏もこれを聞いて疑念が晴れたという。彼女は父親の名前をローマ字でYOSHIKAZUと書いたら、リーダーに「父親の名前はヨシカゾですか」と聞かれた。Uの上の線がくっついて、Oっぽくなっていたので、読み間違いをしたらしい。何万円もとる詐欺にしては粗雑で笑えるミスだ。
 その後、真弓氏は全く架空のプロフィールをこしらえてもう一回アガスティアの館の別の支店に行き、囮調査を決行。すると、いもしない人物の葉が出てきたことから、やはり間違いなく100%の詐欺だと判明する。
 笛吹氏は自分が今まで人生を捧げてきた精神世界の思想の全てを否定された気分になり、アイデンティティ崩壊、そして高熱を出し倒れてしまった、というてんまつなのである。

 二人は直前にあのサイババに謁見していたので、最終的には、サイババの物質化といった神秘は事実なのだからサイババに会えたからいいや的に、本は明るく結ばれ、真弓氏も、この本の献辞をサイババ宛にしている。
 笛吹氏が「裸のサイババ」の名前で、サイババの物質化トリックと彼の数千件の性的虐待を告発する著書を出すのは、この5年後である。被害者を一人一人訪ね歩くほどの熱意ある取材で、同書を上梓したそうだ。

 さて「アガスティアの葉の秘密」で面白いと思った箇所。笛吹氏は、インド占星術が権威を失ってそれ自体では金にならなくなったので、「アガスティアの葉」という新しい器での売り出し方をしたのではないかと推測する。笛吹氏は部分的には、説明できない位アガスティアの葉の記述は事実をあてていたので、生年月日から隠れてホロスコープを作ってインド占星術で言い当てていたのではないかと思ったようである。例えば、彼はすでに不動産投機に手を出しているが、「ビルから利益が入る」と言われたりなど。
 しかし、バブル時代の日本人なら不動産投機は多くの人間がやっていたので、これはコールド・リーディングの気配がする。
 真弓氏は職業柄、現地で何人もの占星術師にリーディングを受けていたようだが、計算ミスでハウスが違ったり、アセンダントがわからなかったりなどいいかげんな人間も多かったとのこと。プロでさえそうなのだから、詐欺師がいちいちこっそり計算していたようには思えないのだが…。
 しかし彼らはアガスティアの館の入館時、親指の指紋を取られているが、インド占星術では親指の指紋でアセンダントのリーディングをする時もあるらしく、参考には使っているのかもしれない。
 ………それにしても、ある詐欺のトリックを説明するのに、占星術で当てていたのだろうと言われると、占星術師をなのっている私でも、「宇宙人の正体はカッパだった」と言ってるみたいで、なんかおもしろいなと思ってしまったのでした。

 そして真弓氏の専門とする「アストロ・カート・グラフィー」について説明しますと、その人のネイタルチャートに基づいて世界地図の上に天体のパワーが通るラインを引き、パワーが高まる地点をリーディングする、というものらしく、初めて知ったので興味深く思った。
 つまりロマンスを探すには、金星のラインが通っている土地に出向けばいい、というようなことになる。
 ただこれは、余暇には世界のあちこちに海外旅行に出かけるような経済的余裕がない国では、もうはやらないだろうと気がする。つまり、日本はもうそんな国ではないので、どうかな、という感じでした。

 この本には、私の心を打った箇所がある。それは真弓氏が架空のプロフィールで囮調査に乗り込んだとき、受付で3000ルピー(1万円)と言われ、その高額さに、横で聞いていた彼女の現地ドライバー青年がびっくり。車の運転以外にも何かと気がつく、誠実な心優しい青年だったので、どうもリーディング時間の間にこのことを人に相談したらしい。
 そしてリーディングが大詰めになったとき、突然見知らぬおっさんが乱入してくる。「あんたのドライバーから聞いたが、3000ルピーもふんだくられるんだと?!そんなことは絶対にダメだ!」と真弓氏に言い、詐欺師たちにも、「お前らはこの子を騙す気か!」と怒鳴る。おっさんを取り押さえるために、館にいた10人ばかりの詐欺師がどやどやと集まってきて、やくざ映画ばりの大立ち回り。真弓氏はいさかいを避けて急いでドライバー青年に車を出してもらう。青年は大騒ぎになったショックで泣き出してしまい、真弓氏が慰めてあげなければいけなかったらしい。
 真弓氏のネイタルは蟹の太陽、魚の月を含む水のグランドトライン持ちで、さらに海王星カルミネート。水のエレメントが強い人間は限りなく優しいが他人に入れ込みやすく、よって騙されやすくもある。彼女の男性遍歴は強烈で、彼氏にすすめられた覚醒剤での逮捕経験もあるという人で、男性アレルギーだと自嘲している。
 その優しさにつけこんで搾取してくる人間は数多いが、ときに、感化された周囲が優しさを発揮するときもある、それが水のエレメントなんだなと思いました。(同じく水のグランドトラインを持っている人物には、ミュージシャンの戸川純がいます。)

 まとめに入りますが、最初に書いたようにこの本は1995年5月に出版されています。
 1995年は多くの日本人にとって忘れがたい年でしょう。あのオウム真理教の宗教テロがあった年です。
 それまでオカルト、ニューエイジ、精神世界、新興宗教サブカルチャーの一部として楽しく消費されていましたが、この事件により、オカルトブームは冷や水を浴びせられ、終結をむかえます。(なおオウムでも青山圭秀のような高学歴の男が多数幹部に登用されており、世間に衝撃を与えました。)

 それから20年以上たっても日本人はなにかオカルトに関してアレルギーのようなものがあり、程よい距離感での付き合い方が出来ていないように感じます。
 目に見えないもの全てを否定し信奉者を嘲笑するか、もしくはどっぷりはまりこんでクリティシズムが無い、というような。
 オカルト信者でも科学信者でもない接し方があるはずで、私はそれを模索しているし、それは一生続くかもしれないと思っています。
 なお、日本にサイババブームをもたらしたあの「東大出のドクター」青山圭秀は、いまだに高額の料金を取って瞑想セミナーなどをやっているようで、あらためて、脱・物質であるはずのニューエイジ思想は経済的に豊かな人間のためのおもちゃなんだなと思いを強めました。

 おまけ
 https://tabippo.net/agastia/
 ↑に2015年にアガスティアの館に行った人のレポートがあります。
 なんと、インチキを暴かれてまだやってるんですね。なんてチョロい商売だろう。
 当たらなさすぎて爆笑しながらのリーディングだったそうです。お布施とタリスマンの料金が日本の経済沈下に合わせてはるかに値下げされているのが、かなしみを誘います。
 最後には、当たらなかったのは「まだ葉を読むときじゃなかったから」など言われたとかかれてますが、これはおかしくて、アガスティアの葉には、人生すべてが書かれており、いつ葉を読みに行くかも記載されているというのが、本来の話であるはずです。