宇宙の産み落とした私生児

とよかわの西洋占星術について考えるブログ。鑑定依頼は件名「鑑定依頼」でこちらへ→astrotoyokawa@gmail.com

【勉強】デボラ・ホールディング「The houses/tenples of the sky」を読んだ

 
①この本について

 電子書籍にて、デボラ・ホールディングの「The houses/tenples of the sky」(1998年初版)を読みました。その名の通り、伝統占星術を学ぶ上で、正確な理解が必須となるハウスシステムのみに焦点をしぼって解説された名著です。

 例えばモダン占星術を学んだ人なら誰もが以下のような認識をしているでしょうが、これは全て誤りです。

・ハウスとゾディアックサイン(獣帯、いわゆる十二星座)は一対一で照応する。例えば牡羊サインはイコール1ハウスで、牡牛サインはイコール2ハウスである。
 →一番広く膾炙している誤り。ハウスとサインはそれぞれ別個の体系から進化した概念で、その象意がイコールで結ばれることはない。ただし、身体部位の割り振りのみはその限りではない。例えば頭や顔はともに牡羊サインと1ハウスの管轄で、首と肩はともに牡牛サインと2ハウスの管轄である。

・同じく、ハウスに割り振られたアンギュラー/サクシーデント、キャデントの属性も、サインの三区分である活動宮/不動宮/柔軟宮と照応し、同じようなものである。
 →これも誤り。独立した全く別個の概念。

・ハウスは1ハウスから始まり、反時計まわりに進んで12ハウスで終わる。これは人間の誕生から、死後、魂が深層意識の海に沈んでいくまでの発達過程をあらわしている。
 →ハウスの進む方向は、チャート上で太陽が進んでいくのと同じく、時計回り(セカンダリ・モーションとも)。また、ハウスシステムの成立した当初である古代にはハウスに番号は振られておらず、ASCの位置から順に反時計回りで1から12の番号を振られたのは後世になってから。なので、人間の発達過程をあらわすというのも、全くの牽強付会である。

 この本を買ったのは去年12月ですが、引っ越しとかいろいろ挟んで大変だったために、読み終えたのは5月という遅さになってしまい反省です。

 以下は伝統的占星術に興味を持ち、これから本書を読みたいと思っている方と自分自身のために概略をまとめておこうと思います。

②その前に、本書の英文レベルについて

 複雑な文法は登場せず、基本的に平易な英文です。辞書を引いても意味がよく掴めないような難解な語彙表現は数ヵ所程度だった記憶があります。古い文書からの引用は当然現代では使わない古英語で書かれていますが、著者がわかりやすく言い換えてくれているのでわからなければ飛ばして構わないです。
 だいたい平均的な高校卒業程度の英語力で十分読めると思います。私はKindleアプリで読んで、範囲選択+タップの翻訳機能を補助的に使いながら読みました。(大体イミフな文になりますが、関係詞が乱交してるような長いパラグラフでも一瞬で文章構造が把握できて便利。)
 伝統的占星術の教本は日本語では一握りしか出版されていないので、英文で読むしかないと思います。出版されていてもバカ高いです。それに比べてこの本は電子書籍でわずか900円程度でした。この分野を真剣に勉強しようとしたら、英語はできて当たり前どころか、さらに上を目指す人は古典読解のためにラテン語やイタリア語も身につけているとのこと。もしも英語に苦手意識があったら、まずこの機会に克服してからのほうが良いです。 
 
③本文序文、第1章、第2章までの概略

【PRELIMINARY GUIDE TO DIVISIONS OF THE CELESTIAL SPHERE

 まずハウスシステムの基礎知識と用語の確認。
 アセンダント・ディセンダントをつなぐラインを地平線として、チャートは地上(昼の半球、diurnal sphere)と地下(夜の天球、nocturnal sphere)に分けられる。地上は12、11、10、9、8、7ハウスで、地下は6、5、4、3、2、1ハウスであり、特にMCおよび10ハウスが地上、IC及び4ハウスが地下の象意を得る。また、このMC・ICラインで二分割したチャートのうち、左半分をrising(日の出)およびoriental(東)、右半分をsetting(日暮れ)およびoccidental(西)と呼ぶ。
 
 また、季節やライフステージや、いわゆる四体液説(四気質説)と結びつけられ、このような象意を得ることもあった。

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(図版は本書23ページより引用)
すなわち、
12、11、10ハウス→東、春、多血質、幼児期、男性宮、熱にして湿
9、8、7ハウス→南、夏、胆汁質、青年期、女性宮、熱にして乾
6、5、4ハウス→西、秋、粘液質、成人期、男性宮、冷にして湿
3、2、1ハウス→北、冬、憂鬱質、老年期、女性宮、冷にして乾

【1 INTRODUCING THE HOUSES: AN HISTORICAL OVERVIEW】
 
 人類史上もっとも古い天文学の遺物は、紀元前1600年頃、バビロンの時代の「アンミサドゥカのヴィーナス・タブレット」である。これは古代メソポタミアアッカドサルゴン(紀元前2371-2230)の治世のもののコピーであると主張する学者もいる。サルゴンは宮廷占星術師たちを雇っていたのである。これは大雑把に言ってエジプトのピラミッド建立の時代でもあり、どちらの文明も数学的・天文的に洗練されていたことを明らかにする。
 古代メソポタミアの占星学は精密な天文観察に立脚し、その解釈手法は「肝臓占い」のものによく似ていた。肝臓占いとは、紀元前1900-1600年頃にバビロニアで見られた非常に古い占術で、犠牲獣から取り出した肝臓の形や色、水分量、曲がり方、傷やシミの位置や数などから判断されるものだ。占星術にも似たような考えがある。例えば惑星の象意の始まりはその色、明るさ、速さなどからである。また、4つのカーディナル・ポイント(アングル)があることも同じだ。
 肝臓占いでは、こう考えられる。「自分のものは左、敵のものは右」。これは占星術で東が良きものや友好的なもの、西が悪いものや敵対的なものと解釈されることと同じである。神々は南に、逆に悪き地獄の神々は北に関連づけられ、もっとも縁起が悪いのは北西となる。肝臓占いではハウスの分割は16と違うところもあるが、東は昼行性/男性性、西は夜行性/女性性など基礎の部分では占星術とかなりの共通性がある。
 紀元前1000年前後のメソポタミアでは星図がまとめられ、紀元前6世紀には獣帯が開発された。また、チャートにアセンダントが記録されはじめたのと同時にハウスも使われていたと考えられている。古代エジプトの宇宙観では、アセンダント含むカーディナル・ポイントは非常に重視されておりそれぞれ固有の神々がいた。そしてその全てに生と死が深く関連づけられていた。
 紀元前322年までにアレクサンダー大王の遠征で小アジアやシリア、エジプトが征服されたことで、現地の聖職者や学者はその地を追われ、貴重な知識をギリシャに差し出すことを求められた。ギリシャ人たちはアテネ、バビロン、アレクサンドリアに学術施設を集結させ、そこで異文化の知識の交換が活発になされた。特に、50万の巻物が収容された巨大図書館を擁すアレクサンドリアは、占星術発展の重要な拠点となった。このように、西洋と東洋の文化が出会ったヘレニズム下の占星術が現在の西洋占星術の一定の基礎をなしている。
 アレクサンドリアにはプトレマイオスやヴィッテンス・ヴァレンスといった著名な天文学者が住み、既存の占星術を集結させ、進化させ、いきいきとした生命を与えた。
 紀元100年頃には、(ヘルメス・トリスメギストスが著したとされる)占星術錬金術の秘法をまとめたヘルメス文書Hermeticaが出現する。この頃には、元々哲学や勉学の象意を持たなかったギリシャの神ヘルメスが、エジプトの神トートと、予知と知識と水星を司るバビロニアの神ナブと同一視された。ヘルメス文書は伝統的なトートの教えに基づいているとされているが、実際のところ古代エジプト起源の知識は少なく、グレコ・ローマンの思想からの影響は明らかである。
 それはともかく、伝統的占星術のあまたの法則は、当時のエジプト人が宇宙をどのようにとらえていたかを教えてくれる貴重な遺産である。例えば‥ターム、フェイス、惑星時間(プラネタリー・アワー)、コンバスト、ヴァイア・コンバスタなど。
 チャートを判断するためにハウスが使用されていた確固たる証拠のうち最古のものは紀元前22年にさかのぼり、最古の現存書物は、紀元10年ごろに詩人マリニウスによって書かれた叙情詩の「アストロノミカ」である。この詩によって、われわれはアレクサンドリアの研究下でハウスの意味が確立されたことを知ることができる。


【2 THE ANGLES: SIGNIFICANCE OF EGYPTIAN SOLAR PHILOSOPHY】

 古代エジプト人は輪廻転生を信じていた。彼らにとって肉体的死は、生命のサイクルにおけるひとつのプロセスにすぎなかった。彼らは太陽の運行も、その神が毎日夜明けとともに東から生まれ出でては西に沈んで死んでいくととらえていた。太陽や月や惑星が西の地平線で「死ぬ」ことから、人間の肉体から魂が離れるときもその方角に引き寄せられて向かっていくと考えた。西は「アメンタット」と呼ばれ(休息の場所、死、ドゥアットの門の意)、ピラミッドや王家の墓がすべてナイル川の西側にあるのもこうした理由である。当時描かれた図を見ると、黄道上で太陽神がさまざまな形に姿を変えるのがわかる(朝は「カプリ」、昼は「ラー」、夜には「アテム」や「アムン/アメン」など)。
 ドゥアットはエジプト神話における冥府(地下世界)の名であり、チャートでいう下半球にあたる。太陽神がディセンダントから暗黒世界に潜り、旅を終えるのはICの地点である。ここで彼は新しい赤ん坊の姿を獲得し、日の出とともに再誕生する。
 この信仰と同じように世界各地の神話や民俗様式が、東を誕生と生命力、南をパワーと成就、西を死と衰退、北を地下世界と関連づけている。例えばイギリスでは、一般的に死刑執行場は街の西にあり、墓は朝日の方角に向かって作られている。教会付属の墓地は南か西に作られたが、犯罪者や未洗礼の子供の墓だけは北に作られた。何故なら日の当たらないその場は、たちの悪い暗い精霊と容易に関わるのである。
 
The Lower Midheaven (IC) エジプト神話の地下世界は中世キリスト世界の「地獄」とは全く異なり、魂を空にし、休ませ、再生させる場。われわれに活力を与える宇宙的な親がいるスピリチュアル・ソースの場である。それと関連して、ICや4ハウスは占星術において「すべての始まりと終わり」「両親」「家」の象意がある。地下の奥深くを指すので、したがって鉱物などの自然資源、石炭や石油もあらわす。または地中に隠された宝や、地中の資源がもたらす富。両親のうち特に父親、祖父母、先祖、家系、先祖伝来の富など。マリニウスによると、土星の神殿。

The Ascendant (Asc): First House 毎朝日が昇るこのポイントは生命そのものの意味がある。伝統的にASCは、私たち生命の外観と人格を意味する。生命が出現するには入れ物が必要で、それをASCが描写するのである。ASCは私たちの本質を外側に向けて表現している。また、マリニウスによると水星の神殿。
 多くの伝統的占星術師が、知性、人格のほかに、健康と活力(vital sprit)を関連づけている。つまり私たちが病気や障害を克服する強さを持っているかどうかだ。また、太陽の昇る場なのでその色から、白や淡いペールカラーの意味がある。
 光は生命の象徴なので、他の各ハウスの生命力を支える能力は、このハウスとのアスペクト関係に大きく依存している。

The Midheaven (MC): Tenth House 中天に近づいていく太陽は最大の強さを放射する。そのため、10ハウスはステータス、名声、地位を意味する。マリニウスはこのハウスを「空の要塞」(the citadel of the sky)、また「栄光」「名誉」「成功の成就」の神殿と呼んだ。
 公共の場においてあらわれる私たちの人格の一側面。4ハウスは家族による財産だが、10ハウスは自分自身の社会的成功による財産。何人かの古典占星術師は、このハウスが労働の成果を意味することから、自分の子供も関連づけている。
 このハウスへの惑星的影響は冒険が成功するかどうかを決める。現代のビジネス・チャートでは、プロモーションやブランドアイデンティティに関わる。また、出生チャートでMCにルミナリーズが乗るとき、生まれつき注目を集める才があり、イベント・チャートやホラリー・チャートでは、物事が明るみに出ることを意味する。
 法の執行と決断。マリニウスによると、法的機関と法的執行のできる権力と権威。フィルミカスによると、MCは人間のすべての行動と取り組みに最も大きく影響を与える。
 MCはチャートに置かれた王冠である。MCと合をなす惑星は全てにおいて力強く影響する。
 一般に両親は4ハウスで、特に父親を指すが、そのパートナーとして考えて10ハウスは母親を指す。(ハウス回し。4ハウスから見た7ハウスは10ハウス)

The Descendant (Dsc): Seventh House エジプト神話でディセンダントに向かっていく太陽は、弱っていく体力、力の減衰、死、治療の必要を意味する。個人的な力の欠如=悪い出来事に影響されやすい=敵を意味するアングルとなった。マリニウスによると、出来事の完結、人生の終焉。また、アセンダントとは逆に、黒、または暗い色。
 マリニウスからプトレマイオスの時代に移るまで占星術は急速に発展し、150年後にプトレマイオスが書いたテトラビブロスでは8ハウスが死のはじまりということになっている。しかし、依然として7ハウスは危険な時期に深く関係があり、例えば彼はディセンダントから人の寿命を算出していた(第3集)。
 自分以外の他の人を意味するため、ここは自分の敵と結婚相手という一見相反する象意を併せ持っている。しかし「西」に関する象徴の要素はディセンダントに不可欠だ。西洋世界において暗闇は敵対的なもの、弱体化しているものと関連していた。例えばピタゴラス哲学においては東=右、西=左。それだけではなく聖書やすべての哲学において、東または右のシンボルは、有益で強く、直接的で、友好的、自己に固定されている資質を意味すると解釈される。逆に、西と左は、他人に与えられた強さとエネルギーのシンボルであり、このハウスが結婚と関連があるように、団結やパートナーシップ、コミットメント感覚を意味するが、自己感覚の弱体化、潜在的に有害である兆候、間接的、あいまいさ、不吉、なじみのないエネルギーも意味する。
 同様に、東は男性的でダイアーナル(昼行性)、西は女性的でノクターナル(夜行性)であり、男性惑星はチャートの東側で、女性惑星はチャートの西側で力を得るとされた。特に月は、ディセンダントで活力を得るが、アセンダントでは衰弱すると考えられた。エレクショナル占星術では今でも、月が昇天する時期に新しい挑戦を開始するのは不吉である。モダン占星術では、7ハウスと任意の性別が結びつけられるが、もともとはあくまで「女性」だったのである。

 このようにアングルは循環する人生と魂のステージをあらわす。ICで魂や概念が生まれ、アセンダントで具現化する。アセンダントからMCにかけては青年期と活力、MCからディセンダントにかけては中年期と成熟、ディセンダントからICにかけては老年期と死である。アンティオコスやポルフィリーといった初期の占星術師は、ICからアセンダントにかけての領域を、究極の弱体化または死後の時期と記述している。
 上記のようにハウスの順番がその数字と逆であることに留意されたし。ハウスは時計回りだが、獣帯は反時計回りで、昇天した星座が見える順に並んでいる。


④全9章ある本書ですが、ここまでで長くなりすぎてしまったので、いったん記事をまたいで、またの機会に続きをまとめようと思います。このように、ハウスシステムを起源や成り立ちから明かした上に、ハウスと象意がどのように結びついていったのか、詳細な解説があるため、伝統的占星術を学ぶ入り口として外せない一冊です。