宇宙の産み落とした私生児

とよかわの西洋占星術について考えるブログ。鑑定依頼は件名「鑑定依頼」でこちらへ→astrotoyokawa@gmail.com

【感想・書評】いけだ笑み著「ホラリー占星術」を読んだ

 いけだ笑み先生の書いた「ホラリー占星術」(説話社、2009)を読んだ。

 ホラリーに興味を持ったのは前回読んだ「ユング占星術」(マギー・ハイド)の中でその技法が多様されており、ハイドが「ユングはホラリーを軽視したから、シンクロニシティ理論の確立に誤謬を含めてしまった」というようなことまで言っていたからです。

 ホラリー占星術とは。
 ネイタル占星術では、生年月日からチャートを立てるけど、ホラリーでは質問が発生した瞬間(占星術師が質問を理解した瞬間)のトランジットでチャートを立てる。つまり、出生時間など細かい個人情報なしに、いつでもなんでも質問できる。
 この恋はどうなるか? 彼とは付き合えるのか? 試験に受かるか? この服を買ってもいいのか? いなくなったハムスターはどこにいる? などなど、万能に近い技法だ。
 それゆえ、恣意的に都合の良い解釈を引き出せないよう、かなり厳密に細かくたくさんの判断材料を見て結論を出す。なにしろ、まず「読むに値するチャートか?」というところから、判断する必要がある。クライアントが隠し事をしていたり、考えがまだ固まっていなかったり、逆に答えがもう彼の中で出ていたり、この質問に答えることで占星術師自身によくないことが起こる、そんな兆しまで、チャートにあらわれている。読むことに決めたあとは指示星の状態を何箇所もチェックし、細かい点数計算。これにくらべたら、思えば心理占星術って結構ざっくりしてたなって感じる…笑。こんなふうに最終結論を出すまではひと苦労。そのぶん、ズバリ的中したときの快感や、畏怖の感情は、半端ない。
 問いが発生した瞬間に夜空を見る…シンプルに言えばそれだけのことだが、なぜ当たるのか。ハイドによれば、それがユングや、グノーシス思想のいう、「一なる世界(ウヌス・ムンドゥス)」ということみたいだ。

 まず占星術を勉強しようという人は、多くの場合、ネイタル占星術から入って、さらに学問体系への理解を深めるためのステップアップとして、ホラリーに手をひろげるというパターンがほとんどだと思う。私もそうだったので。なので、この本は平易で理解しやすい入門書ではあるものの、読むには占星術についてまったくの素人だと厳しいと思う。いけだ先生は松村潔氏の高弟とのことなので、少なくとも松村氏の「完全マスター西洋占星術」あたりを通読して、アスペクトやサインの意味を頭に入れておくといいと思う。(分厚くて高価な本だが、図書館に入っていることも多い)
 この「ホラリー占星術」は290ページと、この手の専門書にしては物理的には薄めの本だが、内容は濃い。必要な技術や情報がコンパクトにまとまっていて、これ一冊だけでいきなりホラリーチャートを立ててリーディングすることも可能だ。
 私は二回通読して、二回目はノートにまとめながら読み、おそろおそるだが自分に関する質問でホラリーチャートを立ててみたが、結果、私の心の動きまでかなり当たっていたので驚きました。
 主にネイタルやシナストリー、トランジットとのダブルチャートくらいしか経験の無い私は、聞いたこともない概念や用語が多数出てきて、一見呑み込むのが難しく感じて、「頭ぐにゃ~~~」となったのですが、根気強く何度も読み返してノートを取れば、ちゃんと理解できました。少なくとも、ネイタルを手助けなしでソラで読めるようなレベルまで習熟できたほどの頭脳と情熱があるなら、あまりに難しすぎるということは絶対に無いと思う。
 税別2200円という価格も占星術関連の専門書としては格段に安く、女性でも手に取りやすくて大変ありがたい! 普通めっちゃ高いよね、占星術の本…。

 いけだ先生自身がクライアントの許可をとって実占で立てたチャートとその解釈過程も多数掲載されている。状況だけは完璧に当たっていたが、結果のみはずれていた、という例も載せていて、いけだ先生の誠実さを感じた。
 もしも天それ自体がアカシックレコードのようなもので、運命がすべて決まっているならやる気をなくす人も多そうだけど(そうだとしても私はぜんぜんやる気あるけど)、なんとなく不可知の部分を残すことで、未来を自分の手で変えられるような余地を感じさせていて、それがうまい。たとえホラリーで悪い結果が出ても、がんばって運命を変えようという気持ちになれそうな気がする。

 ネイタルさえおぼつかないから、ホラリーはまだちょっと…という人でも、伝統的占星術を強く尊重した天体やハウスの象意解説はかなり宇宙観を拡張してくれるし、いますぐホラリーに手を出す予定がなくても一読をお勧めします。通常、黄道12宮や12ハウスが人間の一生の発達過程を象徴しているというのは、誰でもよく聞いてる話だろうけど、この本ではさらに、ハウスを時計回り(通常とは逆)に読んでも、人間の一生を言い当てているという指摘があり、新鮮でゾクゾクするほど知的好奇心が刺激されました。
 ただ占いとして役に立つ、実用性があるというだけでなく、蒙を啓かれるときのどうしようもない快感、胸のトキメキがあり、芸術としても完成されているから、人は占星術/占星学にこんなにも夢中になるのだろうな。

 また、大阪ホラリー占星術研究会さんが、公式サイト上でリーディング用のシートをpdfで配布してくれている。運営の竹宮千生さんが作成したもので、空白に書き込むだけで点数計算など出来て、練習にも実占にも使える便利なものです。
https://gamp.ameblo.jp/osakahorarykenkyukai/entry-12400827240.html

 夜空が答えを与えてくれる、というホラリー占星術は、門外漢から見れば、まったく理解不能というか、おかしな関係妄想のたぐいに思われるかもしれない。私は、占星術、とくにホラリーは、愛に関係する技術ないし哲学だと思う。人間は、すべての物事は、宇宙という大きな生物を構成する小さな細胞のようなものだ。細胞は自分が何をしているのかも、自分が何者かもわからない。でもどれひとつ欠けても生物として成り立たない。
 どうして私は存在するのか、何のために私がいるのか。誰でも直面する哲学的な問いだ。どれほどちっぽけな人間でも、大きな宇宙の一部である。自分がここに存在するということはつまり、宇宙に愛され、宇宙に必要とされていることだ。占星術が教えてくれるのはそのようなメッセージではないだろうか? ホラリーチャートをみれば見るほど、途方もなく巨大で、不可解で、奇怪で、一見私に無関心でよそよそしい宇宙が、しかし確かに、私に応えているのを感じる。ひとりじゃない、と私に言ってくる。すべては偶然ではなく必然で、だからこそ一日一日を生き抜こうと背筋がのびる。ホラリーにはそんな効能もある、と実感した本でした。