宇宙の産み落とした私生児

とよかわの西洋占星術について考えるブログ。鑑定依頼は件名「鑑定依頼」でこちらへ→astrotoyokawa@gmail.com

【ホラリー占星術鑑定サンプル】秘密を打ち明けてよいですか?

【クライアント様からのご相談内容】
 結婚前提で付き合っている恋人がいます。自分には恋人にまだ話していない、過去のとある行いがあります。(詳しく書いていただきましたが、割愛)結婚に際して僕はこれをつまびらかにするべきでしょうか、それとも墓まで持っていくべきですか? ウソをついているみたいで、心苦しいときがあります。

【リーディング結果】
 大丈夫です。
 あなたがきちんと誠意を持ってお話しすれば、それはお相手にも伝わります。話しても、または話さなくても、お二人の絆になんら変わることはない、というのが宇宙からの回答です。既にかなりの信頼関係が出来ているのでしょう。その信頼関係は一朝一夕のものではないはず。これからもそれを大事にしてください。
 はっきりした示しがあったぶん、かなりシンプルな回答になってしまいました。お二人の明るい未来を心よりお祈り申し上げております。

【クライアント様からのご感想】
 大丈夫と言われて、かえって気持ちに余裕ができて、告げても告げなくてもいいかなという気分になったとのことです。罪悪感がなくなり、気が楽になったようで何よりです。またのご相談お待ちしております。
 ホラリー占星術による鑑定のご案内はこの記事の末尾に記載しております。

【占断プロセス・根拠などを一部ご紹介】
 以下は専門用語含む細かい判断プロセスなので、ホラリー占星術を勉強していない人は読み飛ばしてくださって結構です。
 秘密を打ち明けても関係は壊れないか、と少しパラフレーズした上でチャートを立てました。
 チャートを見て、あっ!と声をあげそうになりました。
 ロード1である水星が太陽に突っ込んでいます。コンバストかと思ったら、よくよく見たら、カジミです。
 カジミは太陽の心臓という意味であり、さながら冠をいただいた王の玉座。この位置の指示星の圧倒的優位性をあらわしています。
 ロード1とロード7はともに逆行中ですが、9日後にロード1水星が順行に戻り、アスペクトを完成させます。
 大きなレセプションさえありませんがレッサーレセプションで繋がっており、さらに月はボイドでした。ボイドの月は[何も起こらない][現状維持]という意味があります。
 クライアント様が恐れている、関係の破綻ということはまず起こりえないと自信を持って言える、はっきりとした天意が示されたチャートでした。

 個人的なことですが、私の性格ですと、もしも占星術での仕事の範疇外で、友人から同じ質問を受けたら、うーん余計なことはやめた方がいいんじゃない、などと思わず言ってしまいそうな感じです。それゆえ宇宙がここまでハッキリとGOサインを出すのは意外でした。自分自身の考えの浅さも反省し、勉強にさせていただきました。占星術を学んでいますと、宇宙のスケールの大きさに自分の小ささを思い知らされて、謙虚な気持ちにしてもらえることばかりです。

【ホラリー占星術の鑑定受付中】
 生年月日など個人情報なしでどんな質問もお答えできます。
「この恋は実りますか?」
「就職できますか?」
「試験に受かりますか?」
「なくしたものはどこにありますか?」
「このバッグを買ってもいいですか?」
 何でも聞けます。

 1質問2,000円(税込)となります。
 以下リンクよりPayPayにて送金後、ご依頼内容を記載したメールをお寄せください。
 その際、送金元(あなた)のアカウント名をメール件名か、本文内にご記載下さい。

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もしくはこちらのリンクから
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 ご依頼内容はメールアドレスastrotoyokawa@gmail.comまで。
 ご入金前のご依頼には返信ができませんので、ご注意下さい。

 ※対面鑑定も出来ますが、現在は店舗に出勤がないため、交通費とお茶代を申し受けます。

 ※メールを返信しても、振り分け設定のせいか見落とされる方がいらっしゃいます。設定や迷惑メールフォルダの見直しをお願いいたします。

 ココナラでも受付中です。
 こちらもご検討下さい。
 https://coconala.com/users/1948728/

【ホラリー占星術鑑定サンプル】仕事をやめてもよいですか?

 以前の鑑定サンプルと似ていますが、今回も仕事関連のご質問となります。以前からちょくちょく職場のことでご相談をいただいていたクライアント様から、概略ではありますが以下のように鑑定ご依頼をいただきました。

【ご質問内容】
 直属の上司との関係がこじれ、ひどい暴言、モラハラ的な言動にずっと悩みつづけております。もう、退職を考えています。決意がにぶらないよう背中を押していただけないでしょうか。

 お届けした結果は以下のようになります。

【鑑定結果】
 お待たせいたしました。鑑定をお届けいたします。もう決意はほぼ固まっていらっしゃるようですが、ご依頼のとおり実施しました。

 ご自分でお気づきのとおり、もう○○様は上司さんとも現在のお仕事とも完全に縁はありません。本当に大変でしたね。
 今の状況にとどまることは百害あって一利なしでしょう。一日でも早く行動してください。

 次のお仕事はもう決めていらっしゃるのか、いないのか存じませんが、いずれにせよ今の環境よりははるかに改善されますので、安心して次へ進んでいただいて大丈夫です。

 ただ、決断が大変に遅れてしまったこと、そのせいもありここまで関係がこじれてしまったのは○○様の落ち度もあったように見えます。失敗から学ばない限り、この先の人間関係で何度も同じことを繰り返す可能性があります。経験から学び、人を見る目を養いましょう。

 今回、試練にぶち当たったことを、交通事故のような偶発的な出来事とはとらえないでください。苦労から教訓を導き出して、是非ともこれを成長のきっかけとしてください。

【クライアント様からのご感想】
 自分のせいでもあるという部分を含めてご納得いただけ、退職すると同時に自分を見つめ直すとのこと。ちょっと厳しいことを言ってしまったかなと思っていたので、前向きになっていただけて良かったです。
 また何かあった際には、ご依頼お待ちしております。

 ホラリー占星術鑑定のご依頼は以下までお願いいたします。

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【占断に至ったプロセスと根拠】
 ここからは、専門的な話になりますので、興味のない方は読み飛ばして頂いて大丈夫です。

 かなり以前から上司とのご関係について相談を受けており、シナストリーチャートを拝見したところ、金星に土星がタイトに乗っかっている典型的な支配的・モラハラ的なチャートで実態と的中していました。客観的にお話をうかがっても、かなり常軌を逸した状況だったので、言いなりにならずきっぱりと毅然な態度を取るよう助言しましたが、それをせずひたすらしたてに出てしまって余計に相手が助長した模様です。
 なので、占いどうこう以前に、ご本人の損切りタイミングの遅さ、見通しの甘さや、付和雷同的な態度にも問題があったのではと感じざるを得ませんでした。

 ホラリーチャートの話に入ります。ASCは26度で終わりぎわ。よくよく悩んだすえの質問であるということがチャートにもあらわれています。
 ご本人ロード1太陽、上司ロード7土星、現職ロード10金星という指示星になりますが、ロード1はロード7とは150度、ロード10とは30度と両方ノー・アスペクトで、トランスファーもコレクションも、アンティシアもコントラアンティシアもありません。
 今世での縁はもうないと考えたほうがいいでしょう。

 次の仕事はロード11で判断しますが、ドミサイルを得た水星でかつ11ハウスその場に入っています。ロード10よりはるかにディグニティが良くなるので前途は明るいと確実に言えます。自信を持って背中を押すことができました。

 新月直前だったので月が激しいコンバスト、燃えくずれてボロボロの状態で、ご本人の心境をあらわしていました。ロード1である太陽も月も11ハウスにあり、このことからも気持ちがもう未来に向いていることがあきらかでした。

 この人変だな、この職場おかしいなと感じたのに、その直感を信じられず、対応が遅れてしまう。そういう心理の根底には自分自身を信じてあげられない自尊心の低さにあります。
 日ごろから周囲の人におもねることも媚びることもなく、素直に自分の感性を開示して、小さな肯定をコツコツ集めておくことが大事です。何も後ろ暗い感情を全てぶちまけろというわけでなく、好きなものは好き、イヤなものはイヤと口にしたり、愛想笑いをやめるだけでいいのです。
『自己肯定感の高め方』といった本やセミナーが大人気です。しかし人間は社会のなかで生きている以上、周囲の人との関係や、人からの評価抜きに『自己肯定感』などというものは持てません。
 必要なのは、肯定感などといったアイマイなものなどではなく、肯定された確かな体験です。人からの肯定の積み重ねです。
 そして、人の顔色をうかがいへつらって得たニセモノの肯定は、到底自分で自分を信じることができる本物の自信になど寄与しえないのです。

※その他の鑑定サンプルは、記事カテゴリー「鑑定サンプル」からご覧ください。

【勉強】デボラ・ホールディング「The houses/tenples of the sky」を読んだ

 
①この本について

 電子書籍にて、デボラ・ホールディングの「The houses/tenples of the sky」(1998年初版)を読みました。その名の通り、伝統占星術を学ぶ上で、正確な理解が必須となるハウスシステムのみに焦点をしぼって解説された名著です。

 例えばモダン占星術を学んだ人なら誰もが以下のような認識をしているでしょうが、これは全て誤りです。

・ハウスとゾディアックサイン(獣帯、いわゆる十二星座)は一対一で照応する。例えば牡羊サインはイコール1ハウスで、牡牛サインはイコール2ハウスである。
 →一番広く膾炙している誤り。ハウスとサインはそれぞれ別個の体系から進化した概念で、その象意がイコールで結ばれることはない。ただし、身体部位の割り振りのみはその限りではない。例えば頭や顔はともに牡羊サインと1ハウスの管轄で、首と肩はともに牡牛サインと2ハウスの管轄である。

・同じく、ハウスに割り振られたアンギュラー/サクシーデント、キャデントの属性も、サインの三区分である活動宮/不動宮/柔軟宮と照応し、同じようなものである。
 →これも誤り。独立した全く別個の概念。

・ハウスは1ハウスから始まり、反時計まわりに進んで12ハウスで終わる。これは人間の誕生から、死後、魂が深層意識の海に沈んでいくまでの発達過程をあらわしている。
 →ハウスの進む方向は、チャート上で太陽が進んでいくのと同じく、時計回り(セカンダリ・モーションとも)。また、ハウスシステムの成立した当初である古代にはハウスに番号は振られておらず、ASCの位置から順に反時計回りで1から12の番号を振られたのは後世になってから。なので、人間の発達過程をあらわすというのも、全くの牽強付会である。

 この本を買ったのは去年12月ですが、引っ越しとかいろいろ挟んで大変だったために、読み終えたのは5月という遅さになってしまい反省です。

 以下は伝統的占星術に興味を持ち、これから本書を読みたいと思っている方と自分自身のために概略をまとめておこうと思います。

②その前に、本書の英文レベルについて

 複雑な文法は登場せず、基本的に平易な英文です。辞書を引いても意味がよく掴めないような難解な語彙表現は数ヵ所程度だった記憶があります。古い文書からの引用は当然現代では使わない古英語で書かれていますが、著者がわかりやすく言い換えてくれているのでわからなければ飛ばして構わないです。
 だいたい平均的な高校卒業程度の英語力で十分読めると思います。私はKindleアプリで読んで、範囲選択+タップの翻訳機能を補助的に使いながら読みました。(大体イミフな文になりますが、関係詞が乱交してるような長いパラグラフでも一瞬で文章構造が把握できて便利。)
 伝統的占星術の教本は日本語では一握りしか出版されていないので、英文で読むしかないと思います。出版されていてもバカ高いです。それに比べてこの本は電子書籍でわずか900円程度でした。この分野を真剣に勉強しようとしたら、英語はできて当たり前どころか、さらに上を目指す人は古典読解のためにラテン語やイタリア語も身につけているとのこと。もしも英語に苦手意識があったら、まずこの機会に克服してからのほうが良いです。 
 
③本文序文、第1章、第2章までの概略

【PRELIMINARY GUIDE TO DIVISIONS OF THE CELESTIAL SPHERE

 まずハウスシステムの基礎知識と用語の確認。
 アセンダント・ディセンダントをつなぐラインを地平線として、チャートは地上(昼の半球、diurnal sphere)と地下(夜の天球、nocturnal sphere)に分けられる。地上は12、11、10、9、8、7ハウスで、地下は6、5、4、3、2、1ハウスであり、特にMCおよび10ハウスが地上、IC及び4ハウスが地下の象意を得る。また、このMC・ICラインで二分割したチャートのうち、左半分をrising(日の出)およびoriental(東)、右半分をsetting(日暮れ)およびoccidental(西)と呼ぶ。
 
 また、季節やライフステージや、いわゆる四体液説(四気質説)と結びつけられ、このような象意を得ることもあった。

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(図版は本書23ページより引用)
すなわち、
12、11、10ハウス→東、春、多血質、幼児期、男性宮、熱にして湿
9、8、7ハウス→南、夏、胆汁質、青年期、女性宮、熱にして乾
6、5、4ハウス→西、秋、粘液質、成人期、男性宮、冷にして湿
3、2、1ハウス→北、冬、憂鬱質、老年期、女性宮、冷にして乾

【1 INTRODUCING THE HOUSES: AN HISTORICAL OVERVIEW】
 
 人類史上もっとも古い天文学の遺物は、紀元前1600年頃、バビロンの時代の「アンミサドゥカのヴィーナス・タブレット」である。これは古代メソポタミアアッカドサルゴン(紀元前2371-2230)の治世のもののコピーであると主張する学者もいる。サルゴンは宮廷占星術師たちを雇っていたのである。これは大雑把に言ってエジプトのピラミッド建立の時代でもあり、どちらの文明も数学的・天文的に洗練されていたことを明らかにする。
 古代メソポタミアの占星学は精密な天文観察に立脚し、その解釈手法は「肝臓占い」のものによく似ていた。肝臓占いとは、紀元前1900-1600年頃にバビロニアで見られた非常に古い占術で、犠牲獣から取り出した肝臓の形や色、水分量、曲がり方、傷やシミの位置や数などから判断されるものだ。占星術にも似たような考えがある。例えば惑星の象意の始まりはその色、明るさ、速さなどからである。また、4つのカーディナル・ポイント(アングル)があることも同じだ。
 肝臓占いでは、こう考えられる。「自分のものは左、敵のものは右」。これは占星術で東が良きものや友好的なもの、西が悪いものや敵対的なものと解釈されることと同じである。神々は南に、逆に悪き地獄の神々は北に関連づけられ、もっとも縁起が悪いのは北西となる。肝臓占いではハウスの分割は16と違うところもあるが、東は昼行性/男性性、西は夜行性/女性性など基礎の部分では占星術とかなりの共通性がある。
 紀元前1000年前後のメソポタミアでは星図がまとめられ、紀元前6世紀には獣帯が開発された。また、チャートにアセンダントが記録されはじめたのと同時にハウスも使われていたと考えられている。古代エジプトの宇宙観では、アセンダント含むカーディナル・ポイントは非常に重視されておりそれぞれ固有の神々がいた。そしてその全てに生と死が深く関連づけられていた。
 紀元前322年までにアレクサンダー大王の遠征で小アジアやシリア、エジプトが征服されたことで、現地の聖職者や学者はその地を追われ、貴重な知識をギリシャに差し出すことを求められた。ギリシャ人たちはアテネ、バビロン、アレクサンドリアに学術施設を集結させ、そこで異文化の知識の交換が活発になされた。特に、50万の巻物が収容された巨大図書館を擁すアレクサンドリアは、占星術発展の重要な拠点となった。このように、西洋と東洋の文化が出会ったヘレニズム下の占星術が現在の西洋占星術の一定の基礎をなしている。
 アレクサンドリアにはプトレマイオスやヴィッテンス・ヴァレンスといった著名な天文学者が住み、既存の占星術を集結させ、進化させ、いきいきとした生命を与えた。
 紀元100年頃には、(ヘルメス・トリスメギストスが著したとされる)占星術錬金術の秘法をまとめたヘルメス文書Hermeticaが出現する。この頃には、元々哲学や勉学の象意を持たなかったギリシャの神ヘルメスが、エジプトの神トートと、予知と知識と水星を司るバビロニアの神ナブと同一視された。ヘルメス文書は伝統的なトートの教えに基づいているとされているが、実際のところ古代エジプト起源の知識は少なく、グレコ・ローマンの思想からの影響は明らかである。
 それはともかく、伝統的占星術のあまたの法則は、当時のエジプト人が宇宙をどのようにとらえていたかを教えてくれる貴重な遺産である。例えば‥ターム、フェイス、惑星時間(プラネタリー・アワー)、コンバスト、ヴァイア・コンバスタなど。
 チャートを判断するためにハウスが使用されていた確固たる証拠のうち最古のものは紀元前22年にさかのぼり、最古の現存書物は、紀元10年ごろに詩人マリニウスによって書かれた叙情詩の「アストロノミカ」である。この詩によって、われわれはアレクサンドリアの研究下でハウスの意味が確立されたことを知ることができる。


【2 THE ANGLES: SIGNIFICANCE OF EGYPTIAN SOLAR PHILOSOPHY】

 古代エジプト人は輪廻転生を信じていた。彼らにとって肉体的死は、生命のサイクルにおけるひとつのプロセスにすぎなかった。彼らは太陽の運行も、その神が毎日夜明けとともに東から生まれ出でては西に沈んで死んでいくととらえていた。太陽や月や惑星が西の地平線で「死ぬ」ことから、人間の肉体から魂が離れるときもその方角に引き寄せられて向かっていくと考えた。西は「アメンタット」と呼ばれ(休息の場所、死、ドゥアットの門の意)、ピラミッドや王家の墓がすべてナイル川の西側にあるのもこうした理由である。当時描かれた図を見ると、黄道上で太陽神がさまざまな形に姿を変えるのがわかる(朝は「カプリ」、昼は「ラー」、夜には「アテム」や「アムン/アメン」など)。
 ドゥアットはエジプト神話における冥府(地下世界)の名であり、チャートでいう下半球にあたる。太陽神がディセンダントから暗黒世界に潜り、旅を終えるのはICの地点である。ここで彼は新しい赤ん坊の姿を獲得し、日の出とともに再誕生する。
 この信仰と同じように世界各地の神話や民俗様式が、東を誕生と生命力、南をパワーと成就、西を死と衰退、北を地下世界と関連づけている。例えばイギリスでは、一般的に死刑執行場は街の西にあり、墓は朝日の方角に向かって作られている。教会付属の墓地は南か西に作られたが、犯罪者や未洗礼の子供の墓だけは北に作られた。何故なら日の当たらないその場は、たちの悪い暗い精霊と容易に関わるのである。
 
The Lower Midheaven (IC) エジプト神話の地下世界は中世キリスト世界の「地獄」とは全く異なり、魂を空にし、休ませ、再生させる場。われわれに活力を与える宇宙的な親がいるスピリチュアル・ソースの場である。それと関連して、ICや4ハウスは占星術において「すべての始まりと終わり」「両親」「家」の象意がある。地下の奥深くを指すので、したがって鉱物などの自然資源、石炭や石油もあらわす。または地中に隠された宝や、地中の資源がもたらす富。両親のうち特に父親、祖父母、先祖、家系、先祖伝来の富など。マリニウスによると、土星の神殿。

The Ascendant (Asc): First House 毎朝日が昇るこのポイントは生命そのものの意味がある。伝統的にASCは、私たち生命の外観と人格を意味する。生命が出現するには入れ物が必要で、それをASCが描写するのである。ASCは私たちの本質を外側に向けて表現している。また、マリニウスによると水星の神殿。
 多くの伝統的占星術師が、知性、人格のほかに、健康と活力(vital sprit)を関連づけている。つまり私たちが病気や障害を克服する強さを持っているかどうかだ。また、太陽の昇る場なのでその色から、白や淡いペールカラーの意味がある。
 光は生命の象徴なので、他の各ハウスの生命力を支える能力は、このハウスとのアスペクト関係に大きく依存している。

The Midheaven (MC): Tenth House 中天に近づいていく太陽は最大の強さを放射する。そのため、10ハウスはステータス、名声、地位を意味する。マリニウスはこのハウスを「空の要塞」(the citadel of the sky)、また「栄光」「名誉」「成功の成就」の神殿と呼んだ。
 公共の場においてあらわれる私たちの人格の一側面。4ハウスは家族による財産だが、10ハウスは自分自身の社会的成功による財産。何人かの古典占星術師は、このハウスが労働の成果を意味することから、自分の子供も関連づけている。
 このハウスへの惑星的影響は冒険が成功するかどうかを決める。現代のビジネス・チャートでは、プロモーションやブランドアイデンティティに関わる。また、出生チャートでMCにルミナリーズが乗るとき、生まれつき注目を集める才があり、イベント・チャートやホラリー・チャートでは、物事が明るみに出ることを意味する。
 法の執行と決断。マリニウスによると、法的機関と法的執行のできる権力と権威。フィルミカスによると、MCは人間のすべての行動と取り組みに最も大きく影響を与える。
 MCはチャートに置かれた王冠である。MCと合をなす惑星は全てにおいて力強く影響する。
 一般に両親は4ハウスで、特に父親を指すが、そのパートナーとして考えて10ハウスは母親を指す。(ハウス回し。4ハウスから見た7ハウスは10ハウス)

The Descendant (Dsc): Seventh House エジプト神話でディセンダントに向かっていく太陽は、弱っていく体力、力の減衰、死、治療の必要を意味する。個人的な力の欠如=悪い出来事に影響されやすい=敵を意味するアングルとなった。マリニウスによると、出来事の完結、人生の終焉。また、アセンダントとは逆に、黒、または暗い色。
 マリニウスからプトレマイオスの時代に移るまで占星術は急速に発展し、150年後にプトレマイオスが書いたテトラビブロスでは8ハウスが死のはじまりということになっている。しかし、依然として7ハウスは危険な時期に深く関係があり、例えば彼はディセンダントから人の寿命を算出していた(第3集)。
 自分以外の他の人を意味するため、ここは自分の敵と結婚相手という一見相反する象意を併せ持っている。しかし「西」に関する象徴の要素はディセンダントに不可欠だ。西洋世界において暗闇は敵対的なもの、弱体化しているものと関連していた。例えばピタゴラス哲学においては東=右、西=左。それだけではなく聖書やすべての哲学において、東または右のシンボルは、有益で強く、直接的で、友好的、自己に固定されている資質を意味すると解釈される。逆に、西と左は、他人に与えられた強さとエネルギーのシンボルであり、このハウスが結婚と関連があるように、団結やパートナーシップ、コミットメント感覚を意味するが、自己感覚の弱体化、潜在的に有害である兆候、間接的、あいまいさ、不吉、なじみのないエネルギーも意味する。
 同様に、東は男性的でダイアーナル(昼行性)、西は女性的でノクターナル(夜行性)であり、男性惑星はチャートの東側で、女性惑星はチャートの西側で力を得るとされた。特に月は、ディセンダントで活力を得るが、アセンダントでは衰弱すると考えられた。エレクショナル占星術では今でも、月が昇天する時期に新しい挑戦を開始するのは不吉である。モダン占星術では、7ハウスと任意の性別が結びつけられるが、もともとはあくまで「女性」だったのである。

 このようにアングルは循環する人生と魂のステージをあらわす。ICで魂や概念が生まれ、アセンダントで具現化する。アセンダントからMCにかけては青年期と活力、MCからディセンダントにかけては中年期と成熟、ディセンダントからICにかけては老年期と死である。アンティオコスやポルフィリーといった初期の占星術師は、ICからアセンダントにかけての領域を、究極の弱体化または死後の時期と記述している。
 上記のようにハウスの順番がその数字と逆であることに留意されたし。ハウスは時計回りだが、獣帯は反時計回りで、昇天した星座が見える順に並んでいる。


④全9章ある本書ですが、ここまでで長くなりすぎてしまったので、いったん記事をまたいで、またの機会に続きをまとめようと思います。このように、ハウスシステムを起源や成り立ちから明かした上に、ハウスと象意がどのように結びついていったのか、詳細な解説があるため、伝統的占星術を学ぶ入り口として外せない一冊です。

【ホラリー占星術鑑定サンプル】この人と結ばれますか?

 少し前ですが、クライアント様から下記のご相談をいただきました。今回は、恋愛についての鑑定依頼です。許可を取って転載いたします。

【ご相談内容のまとめ】
 仕事で知り合った同年代男性が、何かと自分に気があるようなそぶりをしてきて、困惑半分嬉しさ半分です。というのも、彼は既婚者なので素直に喜べません。人間的には好感を持てる相手なので、まんざらでもないと思ってしまっている自分がいます。
 念のため聞きたいのですが、私は何かの間違いやはずみで、この人と関係を持ってしまうことってありえますか?

【リーディング結果】
 ご依頼ありがとうございます。
 結論を単刀直入に申し上げますと、「あなたさえその気になったら、十分可能です」。しかし、まずは以下を読んでから今後のことを考えてください。
 彼が●●様にかなりの好意を抱いているのは、勘づいているとおりです。しかしどちらかというと、●●様のほうが彼のことで頭がいっぱいになっている状況かとお見受けしますよ。「まんざらでもない」は照れ隠しでしょうか?
 そのチャンスや接点は今後いくらでもあります。あなたが攻めるか、攻めないか、全ての選択が委ねられています。
 しかし、もしも実行に移してしまうと、●●様に待っているのは精神的破滅だけです。
 彼があなたに入れあげているのと同じかそれ以上に、しっかりと奥様を愛している表示も出ています。幸せな結末にはまずならないと覚悟していただきたいところです。
 ●●様の過去の恋愛遍歴、恋愛観などはわかりませんので、いっとき満たされたらそれでいい、この先につらいことが待ち受けていても、この思い出があれば生きていける、それくらい人生をかけた恋である、というのなら、止める権利は誰にもありません。でも、しばらく頭を冷やして考えてみることをおすすめします。本当に全てをなげうつほど価値がある相手なのか? と。
 人生は、そして人格とは、選択の積み重ねで成り立っています。どちらの道を選ぶにせよ、「ついつい、~~しちゃった」「何となく、まぁいいやと思って」など、無責任だけはやめていただくようにお願いしたいです。
 心安らかな日々を過ごせるよう、お祈りいたしております。

【クライアント様からのご感想】
 本筋ではない部分ですが、彼に夢中だったことを言い当てられて、驚いたとのこと。ただ、鑑定どおり頭を冷やしてよく考えることにしたとのお言葉をいただきました。その後、仕事の都合であまり接点がなくなり、疎遠になるにつれて気持ちも冷めた‥、あのとき助言に従ってはやまらなくて良かったです、との後日談もいただきました。
 またいつでもご相談下さい。
 鑑定お申し込み、料金などについて詳細はこの記事の末尾にあります。

【占断プロセス・根拠などを一部ご紹介】
 以下は専門用語含む細かい判断プロセスなので、ホラリー占星術を勉強していない人は読み飛ばしてくださって結構です。
 何十とホラリーチャートを立ててきましたが、実は、ASCがバイア・コンバスタ(灼熱の道、天秤座15度~蠍座15度)なのは、これが初めてでした。ひとめで、苦しい恋になるだろうことが分かりました。
 恋愛のホラリーチャートでは、クァレント(質問者)のルーラーにロード1とサブルーラーに月、意中の相手にロード7。さらなるサブルーラーとして女性には金星、男性には太陽を割り当てます。ロード1はクァレントの人格、月はクァレントの気持ちの動き、ロード7は相手の人格、金星は登場人物のうち女性の女性性、太陽は男性の男性性を司ります。
 このチャートではロード1は金星でやぎ29度、ロード7は火星でおうし12度。レセプションでそれぞれイグザルトとドミサイル、クァレントのほうが余分に夢中であるものの十二分に相思相愛です。
 アスペクトを見てみると‥、火星金星アプライ(接近)のスクエア。月太陽アプライのトライン。金星太陽アプライのコンジャクションとアスペクト祭り。チャンスはいくらでもあります。でも、スクエアは第一印象で強く惹かれるが、やがて反発しあうアスペクトです。人格の部分で相手を嫌悪するが、経済力やセックスのよさで離れられなくなる、そんな最悪の未来すら考えられます。
 月が最後にとるアスペクトで、クァレントが質問の件で最終的に抱く感情がわかります。それは冥王星とのスクエア。はっきりと不吉です。精神的に破綻してしまうようなショック体験でしょう。
 てんびん0度の月は、12ハウスかつ、アンティシアの月は6ハウス(=相手からみた12ハウス)。クァレントは本心を押し隠していますが、本当は相手を誘惑したがっています。
 相手は既婚男性です。不倫や三角関係のチャートでは、第三の人物をあらわすシグニフィケーター(指示星)は特定のハウスルーラーとしてあらわれるのではなく、状況から読み取ります。たとえば、相手のシグニフィケーターのすぐそばにある惑星がしばしばあてはまります。また、その象意上、意中の相手の妻や夫といった人物は、土星として登場することが多いです。このチャートでも太陽のすぐそばに土星があり、また、太陽がみずがめ12度で土星にドミサイルのレセプション。どうも、奥さんのことも大好きみたいです。
 クライアント様には、何にせよ後悔はしてほしくないので、言葉を選んでお伝えしました。ただまぁ、失敗からしか学べないこともあるのも人間という生き物です。
 ご納得いただける結果になって、ひと安心です。


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この融合願望の正体は何か/"距離梨"、マザコン、聖母の心理分析

 もくじ
 1 はじめに/”梨”との遭遇
 2 融合願望とは何か
 3 帰属願望と化した融合願望
 4 融合願望はなぜあるのか
 5 おわりに


1 はじめに/”梨”との遭遇

 あなたは今まで、こんな人に出会ったことはないだろうか。

 知り合ったばかりの彼/彼女は、大変に気さくで開けっ広げで、やさしくて面白くて、とてもあなたにフレンドリーに接してくれる。見開かれてキラキラと輝く瞳がまるで子供のように純粋だ。ものの数分でたちまち意気投合し、相手もまるでソウルメイトに出会ったように喜んでくれる。
 彼/彼女はまだよく知りもしないあなたに対して、何かと賛辞の言葉を惜しまない。あなたのセンスや知性を誉められて、悪い気はしないので、時にそれが歯の浮くようなそらぞらしい言葉でも、または体つきのことにまで及び、その失礼すれすれのフランクすぎる態度に驚きを覚えても、聞き流すことにする。
 褒め言葉を並べ立てるだけではなく、何かと自分と友人付き合いするメリットを示してくれる。たとえば異様なほど気前がよく、同性だとか、同い年かそれより下なのに食事はすべておごってくれたり、クリスマスでもないのにプレゼントがやたら多かったりする。それも、かなり高額な。あるいは、お金持ちであることや、人脈の広さ、「近々大きなプロジェクトの仕事を発注したい」などと、とにかく、この人と繋がっていれば得があると感じさせるような、あらゆるメリットをうまいこと匂わせる。勘がよければ、少し話の盛り癖があるとピンと来る。あるいは実はただの虚言癖だったりするが、ともかくあなたはトクしている、またはしそうなのが確かなので、多少の瑕瑾は目をつぶることにする。
 ほぼ初対面か、もしくはSNSで繋がっているだけなのに、複雑な家庭事情を開陳してきたり、深刻な打ち明け話をされるのも、彼/彼女の率直な性格ゆえの個性なのだろう。行動やリアクションがどこか常識とはズレているのも、まぁ、よくあることだと己に言い聞かせる。
 あなたに影響を受けていることも隠そうとせず、言動や持ち物や髪型をそっくりコピーしてきても、それほど憧れられているからだと自分を納得させる。恋愛ではなく友情のはずだが、それにしてはあまりにも熱烈すぎる入れあげ方な気がする。そう、これはまるでハーレクインなみの熱愛だ。
 ほどなくして、連絡魔か、それほどでもないにしろ、コンタクトがとても多いことに気づく。LINEやダイレクトメッセージで、連日のように用件もなしに話しかけてきたり、オープンなSNS上なら、リプライをどんどんつけてくる。出会ったばかりなのに、完全に気を許していて、警戒心がまるでない。それほど相手にとっては自分との出会いが運命的だったのだろうか? それだけでなく、だんだん愚痴が多くなる。反応に困るような重い話だったり、建設的なアドバイスを返してものれんに腕押しだったりして、あなたの違和感は大きくなる。相手の愚痴は、要するに、アナタは悪くない、と言ってほしいだけのもので、試しにそういう反応を返せばとても満足そうにする。
 だんだん明らかにべったりとした甘えがひどくなり、あなたに気づかいをしなくなる。会ったばかりの頃は過剰なほど気を使ってきたはずだが。気が向いたときだけのプレゼントの内容もぞんざいになる。食べかけて封を切ったお菓子、大掃除で出てきた使いかけの文房具、ビンゴ大会で当たったいらないタコ焼き器。
 ここまでくると、「自分は自己肯定感が低い、低い」と念を押すように繰り返してくるのも、だから人は自分に優しくするべきだ、批判をしないべきだという脅迫めいた先制攻撃のようにあなたが思っても、全くおかしくない。

 あなたが爆発して関係を切ることもあっただろう。しかしそうしなくても、相手は突然! そう、突然にして、姿を消す。それも、どうにも察しのつかない、不明の理由で。きのうまで普通に会話を交わしていたのに、けさ起きたらLINEブロックされているというほど突如の出来事であり、まるで彼/彼女という人間が最初からいなかったかのように、痕跡も残さず、あなたを切る。
 なにか悪いことをしたんだろうか? こんな、飽きたおもちゃのスイッチを切ってポイ捨てするみたいな、非情なカットアウトをするだけの何かを? 考えてもたいてい無駄だ。たいてい、驚くほどささいなことである。たとえば、あなたが彼/彼女の意見について、「部分的に、同意できるところも、できないところもある」といった態度を表明した次の瞬間にそれは起こったのかもしれない。あるいは、もっともっと、とんでもないほど些細で、毎日必ず湯船につかるのが習慣の彼/彼女に対して、「私はシャワーですませてる」と言ったときトリガーが引かれた、そんなことすらある。
 あなたはその後の彼/彼女の様子を何かのはずみで知るかもしれない。なんと、というべきか、やはり、というべきか、あの人は、また別の”ソウルメイト”に出会って、べったりご執心のご様子だ。しかし、その蜜月も長くもないと、あなたは分かっている。同じことの繰り返しになるだろう、と。
 彼/彼女は、まるで家をつぎつぎ乗り換えるヤドカリか、別の生き物に寄生していないと生きられない寄生虫のように見える。
 あるいは、確かに肉体を持っているはずなのに、それを持ち合わせず、生身の人間にとりつかないと存在できない浮遊霊のようでもある。個性は強烈なはずだが、あまりに他人本位すぎ、依存的すぎて、その人自身はこの世にいないかのような錯覚すら受ける。
 ほっとひと安心するのも、つかの間だ。まさしく、その人物はほうぼうで同じことを繰り返し、インスタント・ソウルメイトを乗り換えてばかりで、常に孤独である。だから、さみしさのせいなのだろう、突如ドロンと消えたのと同じくらいの唐突さで、なにも無かったかのように平然とあなたに接してくる。「久しぶり」の挨拶すらないかもしれない。それはあたかも、おもちゃのスイッチを入れ直すがごとくだ。あなたが学習しないタイプで、いい気分になって、反省しているのかななどと都合のよい解釈で歓迎したら、やはりまた結果は言わずもがなとなる。

2 融合願望とは何か

 このような「浮遊霊」たちは、インターネットスラングで、主に女性たちの間でよく”距離梨”、”梨””梨子”などと呼ばれる。むろん「距離感が無い」が転じた言い方である。ためしにこういう言葉でGoogle検索するだけで、膨大な量の被害体験の書き込みがヒットする。(なお、  書き込み主らは、それが「被害」であることを強調したがるが、いくつも危険サインがあったり違和感を抱くきっかけがあったのに適切に突き放すことができなかった時点で、懐かれた方も十分”梨”の素質ありだろう。人間関係は鏡のようなものだ)
 
 では、”梨”たちはなぜこのような短絡的な対人トラブルを繰り返すのだろうか。それはこのブログで何度も登場している心理的投影(投射)の働きがある。
 ”梨”たちが見ているのはあなたではなく、この世に存在せず当該人物の心のなかにだけある理想像の投影である。

 その理想像とは100%自分と気が合う人間である。自分が何を言っても何をやっても許してくれて、すべてを肯定してくれて、お互いにすべてを知っていて秘密がなく、誤解やすれちがいはなく、そして自分の予想や期待を決して裏切らない。

 だから、理想像と少しでも食い違ったり、期待外の行動を取られるだけで、”熱愛”は跡形もなく冷める。「あなたのその考え方は違うと思う」というようにはっきり他人と対峙するほど成熟しているわけもないので、ケムリのようにドロンで終わりだ。”梨”の人間関係には、全肯定か全否定の2種類しかないのである。
 この理想像を端的に言い換えれば”母なるもの”、”聖母”だろう。自分と他人の区別がなく絶対に自分が否定されない関係は、まるで母と胎児のそれだ。他人から必要とされる戦略として、”梨”自身が、誰をも否定しない聖母のような社会的人格を演じていることもしばしばだが、しかしその実態は、子宮を探しもとめるむきだしの渇いた胎児である。
 実際に”梨”は母親との関係が悪いことを隠さないので、一見して考えれば「母親との関係が満たされなかったので、他人に母親を求めている」という結論に至るのはたやすい。実際、「毒親持ちは距離梨が多いから、近寄らないようにしている」と言っている人を見たこともある。

 しかし、「自分よりも大きな存在と融合したい」といった願望は、人間存在に普遍的なものだと考える。
 卑近な例でいうと、憧れのスターと同じ髪型や持ち物が爆発的なブームとなる。ここで大衆に働いているのは理想の人物との同一化欲求だが、これも融合の願望と根源は同じものだろう。同一化欲求が普遍的でなければ、そもそもスターや、プロスポーツ選手、インフルエンサーといった仕事は成り立たないだろう。

 思いどおりにならない彼女や妻や子を殴る男も、自分の予想を裏切らない、一心同体であるのが本来の相手なのに現実はそうではないから、暴力という行動を取る。
 依存と支配は、どちらも融合願望の発露といった点で、裏返しの同じものである。
 
 この記事では、自己存在の肯定を求める願望や、同一化欲求もひっくるめて、融合願望と呼ぶ。

‥蛇足だが、(自分を否定せず全肯定する)母なるものという概念はたまたま母という語が入っているが、実際の母親とは、ほぼ関係ない。母とは子を全肯定するべきものだ、という思い込みによって必要以上に「毒母」に憎悪が向けられている傾向が昨今とくにある。このような憎悪とその裏返しの執着は、融合願望がマザコンに姿を変えたありふれた例だろう。‥


 3 帰属願望化する融合願望

 話を戻す。では、融合願望が特別なものでないのなら、”梨”とそうでない人間の違いとは何だろう。

 ここで、「自分より大きなものと融合したい」という願望をもう一度考える。融合したらどうなるのか。得られるのは安心感である。自分の存在が肯定され、この社会に存在してもいいと思えるような。つまりこの融合願望の矛先は、社会に向けられてもいる。
 ここ10年ほどでインターネット上で爆発的な流行語になった「承認欲求」も、なぜ社会/大衆に承認されたいか、それは社会/大衆という大きな共同体に迎え入れられ、融合し、自己を肯定されたいから以外の理由はなく、やはりここでも、融合願望が働いている。
 ”梨”には全肯定か全否定の2種類しかないということは既に記したが、そうでない人は、部分肯定、部分否定を知っている。人や物に対して、ここは良い、ここは悪いと切り分けた判断をする。そのバランスで付き合い方を吟味するのが誰もが無意識にやっている自然な思考プロセスであろう。
 判断の主体が人であるばかりでなく、共同体それ自体も人に対して行っている。最小単位だと家庭。親族。町内会。職場。趣味のサークル。
 そこでは誰もが完璧に瑕瑾のない人間ではいられず、たいてい、ここは良い、ここは悪いと少しずつ違った評価をされている。家庭では優しいけど少し頼りないパパが職場ではバリバリとリーダーシップを発揮していて、頼れるけどちょっとけむたがられていたりする。
 そうした様々な大小の共同体から、(「ゼルダの伝説」のハートのかけらのように)少しずつ「部分肯定のかけら」を集めて人は社会に存在している。それで満足している人間は、たった一人の相手に全肯定を求めずにすむ。1人にホールケーキをまるまる要求せずとも、6人からケーキを1ピースずつもらえばいいのである。

 つまりここでは、まず「自分より大きな存在」として疑似人格化された共同体群があり、それらへの帰属願望としてトランスフォームした融合願望が、さらに細かく分散化されて向かっている。

 帰属願望というものが、対象が共同体に向けられたバージョンの融合願望と考えると、親との関係が良くない人はまず「生まれ育ったファミリーの一員」という共同体への帰属意識を感じることを拒絶している、あるいはせざるを得ない状態なので、まず分散先がひとつ減らされている。もしも他のどの共同体にも居場所がなければそのエネルギーが一点集中でレーザーのように特定個人に向けられ、果たして”梨”の誕生になるだろう。そう考えると「家庭環境に恵まれないと、距離感がおかしくなる」といった宿命的で不可逆的なものではまったくなく、あとからいくらでも解決できる話となるし、現実にそうであろう。

 また「毒親だ」と名指されている親の具体的な例をみると、親自身がどこにも帰属意識を感じる居場所がなく、やはり融合願望がわが子に一点集中し、過密着を引き起こしていることがほとんどといっていいほど多い。

 人間の自意識も人格的背景も独立したものであり、一対一の関係性において他人の融合願望をまるごと受け止められる人間は存在しないので、精神的よりどころを確保しようと思ったとき、融合願望を分散化するという方法はかなり有効と思われる。ただ、宗教の教祖や導師といった立場の人間なら、まるごと受け止めることも可能かもしれない。

4 融合願望はなぜあるのか

 それにしても、なぜこんなものがあるのだろう。
 他人と自分は別物であることなんて、一目瞭然、わかりきっていることだと感じる。実際に、自分の肉体は自分のもので、思いどおりになり、他者の体を動かすことなどできない。顔が違う。声が違う。別々の肉体であるのは、明々白々なはずだ。

 なのに「自他の境界を引け! 自他の区別をつけろ!」という決まり文句が、毎日のようにこの世界には飛び交っている。それがあいまいな人間があまりに多いからだ。
 しかし、それだけのことが、一体なぜむずかしいのか?

 呪文のように、自他の区別をつけよう、自他の区別をつけようと自分に言い聞かせていた私にとって、ユング的世界観に出会ったときは衝撃だった。そこでは宇宙が、すべてはひとつであることを人間に気づかせんがために、偶然とは思えないほど奇妙なシンクロニシティ現象を引き起こしているのである!

 あるいは、仏教や禅的思想の主客合一の世界観もそうだ。そこでは、自分と自分以外のものの区別はない。究極の自他融解の世界である。歩きながら、私は目にうつるものを見て不思議な、神聖な気分になった。遠くに見える山々も、足元のコンクリートブロックも、すべてが私自身であり、同時に、私はどこにもいない。途方もない考えの気がした。

 こう考えることは出来ないだろうか? すべては、もともとひとつなのである。自他の区別など、実ははじめにはなかったのである。しかし人間に目覚めた自意識、近代的自我が、「個人」を誕生させた。英語で個人を意味するindividualという語は、それ以上分割できない、というラテン語が語源だ。社会を構成する最小単位が個人である。
 しかし、分割されすぎた自意識は、人類に内省と神経症の時代をもたらした。人に囲まれている。なのに孤独で身を引き裂かれそうになる。愛する人がそばにいる。なのに自分は誰からも理解されないと感じる。名前がある。でも、誰でもないように感じる。家にいる。なのに、帰っていく家がないと感じる。
 それはまるで、祖国を喪い、帰る場所がなくなった、ユダヤ人のディアスポラ(離散)の悲劇的歴史のようだ。

 大小の共同体への帰属願望として、融合願望を昇華させようとするとき、最小の共同体が家族ならば、最大のものは、宇宙それ自体だろう。家族、会社、趣味のサークル、そういったものが案外壊れやすくはかないものであることを考えると、融合願望のはけぐちを宇宙に向けるというのは、リスクヘッジとして合理的なのかもしれない(なにしろ、宇宙は少なくとも熱的死を迎えるまでのしばらくの間はなくなりはない)。その手助けをしてくれるものとして占星術というものがあるのだろう。

 5 おわりに

 長い文章を読んでくれてありがとうございます。

 この記事はこれで終わりですが、冒頭に掲げた”距離梨”たちの具体的行動の例の数々は、私がいままでの人生で遭遇した百万人ほどの人物とかつての私自身のそれをミックスさせたものであり、特定個人のみを想定したものでも、中傷するものでもないことは明確にお断りしておきます。

生きるとは汚れることだ…物理的に

 10代の私が部屋を片付けようと、意を決して使わなくなった雑貨を黒いゴミ袋に放り込んでまとめると、次の日、母が怒っている。
「さっちゃん、ひどい。ママのもの勝手に捨てるなんて」
 買い物好きの母が買った、家具から小さなファンシー雑貨までさまざまなものが私の部屋に放り込まれ、存在すら忘れているくせに、処分しようとするとゴミ袋をあさられる。なぜ気づくのか、いつも中をチェックしていたのか。とにかく、あくまで貸しているだけということになっているらしく、勝手に片付けることは許されない。
 母が買ったもので部屋が埋め尽くされていたのは、ひとり暮らしをはじめてからも、しばらく続いた。母が気に入って買ったアンティークの机や高価でバカデカいデザイナーズ家具。彼女の買い物欲を満たすためだけに買われた、私の好みではない大量のレトルトや缶詰、カップ麺が届きつづけた。
 実家では母は脱ぎ捨てた服を椅子やソファに高々と積み上げ、来客のときはストールをかぶせて隠し、食卓の半分はモノで埋まって使えなかった。

 私も彼女と同じく掃除と片付けの重要性を理解しなかった。それどころか、腹を立ててさえいた。やっとの思いで部屋を片付ける。でもすぐに散らかる。どうして永遠に続いてくれないのか。一度で済まないのか。物理的なことでも、精神的なことでも、日々変化していくもの、流転するもの、せざるをえない物事が嫌いだったり、恐ろしかった気がする。世界が隠しているたったひとつの真実のように、永遠不変のものばかり求めていた。

 小学生のとき、男子に
「お前が通ると、アトピーの粉が舞う」
と言われた。しっしんが治りかけたときに覆う白い鱗屑(りんせつ)のことだ。それが雪のように部屋にも私自身にも降りつもることのほうが、かゆみやしっしん自体よりつらかったかもしれない。アレルゲンが増える季節になると、頭皮にもしっしんができる。頭にフケついてるよ。予備校でとなりの男子にそう言われて、私は二度と出席することはなかった。

 母はからっぽの心を買い物で埋める典型的な買い物依存症だった。

 なにかを買う。あるいは、居酒屋で金を腹ってお酒を飲む。買い食いをする。映画館に入る。ギャンブルに使う。そういったことはお金を払って即座に快感がやってくる。でも、生活を維持する、生活や自分自身をメンテナンスするためにお金を使うのは、速効性の快感ではないから、刹那的に生きているとどうしてもコストを回せなくなる。
 生活の維持とは、積み重ねだが、ある種の人間は積み重ねるということができない。歯みがきをさぼるという目先の誘惑に飛びついて、歯を失ったりする。信頼を積み重ねた結果のメリットを待てず、約束をやぶったり人を裏切ったり、金をちょろまかしたりする。すぐ拭けばなんてことない汚れを放置して、大がかりな掃除が必要な事態を招く。

 筒井康隆の、テレパスの少女七瀬が主人公の初期シリーズに、「澱の呪縛」という短編がある。家屋全体が非常に不潔な家庭に住み込みで働くことになった七瀬が、一念発起して掃除をはじめる。家族は、あからさまに七瀬に敵意を向けはじめ、やがては彼女を追い出し、家はふたたび不潔の神殿へともどる。彼らにとっては、自分らの排出したゴミの不潔さが絆であり、外界からの結界のようなものだった。

 ゴミ屋敷のような一軒家のなかで自分だけが部屋を片付けたいと行動した私からも、母は裏切りと拒絶のにおいを感じたのだろう。
 片付けるというのは、境界線をひくことだ。いるものといらないもの。すぐ使うものとそうでないもの。母は私がへその緒を切ろうとしていることに勘づいたのだ。
 原初の海、母なる混沌の海は、すべてがひとつなのだから、そりゃミソもクソもいっしょだったろう。

 服にも頭にも家具家電にもすぐりんせつが降りつもる。心ない言葉しか言われたことしかない。これでは自分だけがひと一倍手間を課されているようで、そうじ嫌いに拍車がかかった。しかもその手間はだれにもかえりみられることがない。私のせいで招いた事態でもない。なのに、人より大変な思いをしても当然と思われてる…どころか、人より大変ということすらだれも知らない!理不尽に過ぎる。ムカつく。私がいったい何をしたというのか?! 何かの罰で、こんな重荷を背負わされたのか。
 りんせつ、これすら無かったら人生はずいぶん違っていただろうと、何十回も何百回も考えた。
 私は何に対しても、こまやかなメンテナンスなんてしたくないんだよ。だって、それが本来一番必要なのは、この私の心自体なんだよ!すぐ汚れるものなんていらない。壊れないものだけ欲しい。絶対の愛とか、宇宙の定理とか、そういうものだけに価値があるのだ。

 生きているからには日々老廃物だの何だのを排出してるのは分かるけどそれにしても人間の体って手がかかりすぎという気がする。夜寝る前に歯みがきをして、朝起きたらまたしなきゃいけないとか、ゲームだったらこんなんバグや。それどころか寝る前に顔を洗ったりシャワー浴びて、起きてからまた同じことをする人もいる。バグや。

 自分でも信じられないことだが、引っ越してきてから、かれこれ、ほぼ毎日そうじをしてる。すると、驚くことがある。毎日かけているのに、クイックルワイパーはけっこう汚れる。毎日、灰色になる。ほこりの大部分は人間のはがれおちた皮膚だ。毎日、こんなに新陳代謝が行われているのか。ほとんど私が立ち寄らないようなエリアさえ、クイックルをクイクイとかけたら、しっかりと汚れる。
 働きながらこれは無理だなと感じる。高度成長期の、モーレツ社員のだんなさんが専業主婦の妻に家の中のなかをすべてやらせる、というワークライフスタイルがいまだにダラダラ続き、その結果、女だけが賃労働と無賃労働両方をやっていて日本女性は世界で一番睡眠時間が短くなっている。

 人間の細胞は約3ヶ月ですべていれかわるらしい、という話をはじめて知ったときは、なんだか不気味に思った。そんなたえず変化する不確かでぐにゃぐにゃで脆弱な入れ物のなかで、自分という人間の連続性が保たれているなんて、いかにも恐ろしい話だった。

 夜が明けて日がのぼる、夏が過ぎて秋が来る。

 あるとき、冬の間雪が降り積もりはげていた枝が、春になって葉をつけ、その葉の色がだんだん濃くなっていくということに気づいたことがある。
 私はもう中年になっていた。
 木というのはそれを毎年繰り返しているらしい。

 春に花が咲いて嬉しいのは、退屈な日々に変化をくれるからだろうか。それともそれが、毎年必ず約束されているサイクルによるものだからだろうか。

 習慣の力というのはすごいらしい。そうじや片付けを習慣にしたら、しないほうが気持ち悪くなるようだ。いま私もそれを感じている。儀式のようになっている。毎日の習慣。春になると咲く花も、咲く理由を聞いてみたら、習慣になってるから咲かんと落ち着かないから、なのかもしれない。

 札幌に住んでいた頃、私は地獄の底の底で這っていて、そのうえ、ガスコンロの火がつかなくなった。
 母と同じで私もコンロのそうじをしたことなかった。積もりに積もった汚れがガチガチに固まって、安全装置がおかしくなって、点火の位置でつまみを手でおさえてないと火がすぐに消えた。
 私はガスコンロの上にカセットコンロをのせてラーメンをゆでていた。
 いま、こまめにキッチンをそうじしていると、こうやってこまめにささっとやっていたほうが、はるかにラクで、かえって手間もかからない、めんどうなことにもならないし、気分もすっきりして、快適だということに気づく。
 料理をしていると、ゆで時間や煮込み時間とか空き時間がちょっと発生するけど、その最中にシンクだのなんだのは手早くパッパとそうじするとがんこなこびりつき汚れには発展しない。
 この自分がこまめにキッチンをそうじするとか……。
 まるで生まれ変わったようだ。
 前世も来世も存在しない、証明されていないからだという人がいる。でも私は一生のあいだにこうやって生まれ変わって来世を生きている。死ぬまでにもう一回二回は生まれ変わりをひかえてるような予感がある。
 代謝し、排出し、毎分毎秒汚れているから私は死んでよみがえって新しい自分になれた。

 部屋の汚さのせいでずいぶん損も不便もしてきた。なかなかものが見つからず、さがしものをしている時間がとても長い。見つからずにしょうがなくもう一回買う。買ったことを忘れて同じものを買ってしまう。なくしたままついに引っ越しまで見つからなかったもの。見つかったはいいものの汚れてしまって使えなくなったもの。お金と時間をどぶに捨ててきた。自分のことがどうでもよかったから、自分の快適さに真剣に向き合わなかった。快適に生きてはいけない気すらしていた。探しても探しても見つからない。そして自己嫌悪の澱の海に沈む。

 宇宙にとっては私やほかの人間すべてが、3ヶ月たったら死んではがれおちていく細胞のようなものなのだろう。
 たえず新陳代謝で、人が生まれては死んでいき、ひとりひとりは意味も理由もわからないまま宇宙というひとつの肉体を構成して支え、働いている。細胞そのものは、自分の役目を知らないのと同じだ。自分が細胞ということすら知らないだろう。

 私から落ちていく白い雪のようなりんせつは私自身だった。

 親たちはまだゴミ屋敷のなかで暮らしている。田舎の年よりはだれでも同じだ。
 彼らは、物は大事に使おう、捨てるのはもったいないと幼少期からきびしくしつけられたのに、大量生産大量消費の時代が到来してしまった。整理整頓の大切さも知らない。
 まだ使えるものを捨てるなんてとんでもないという罪悪感をかかえたまま新しいものを次々買っている。
 捨てることに罪悪感があるので、いらないものは娘に送る。安かったから、といって最初からいらないものを買って、プレゼントということにしたりする。お金はパワーなので、パワーを振るう快楽があれば何を買うかなんてどうでもよかったりする。
 母はクイックルワイパーのシートをすぐ捨てるのはもったいないと、ビッシリと大量の髪の毛とゴミのこびりついたシートを装着したまま、一ヶ月もとりかえていなかった。捨てようとしたらおそらく、もったいないと叱り飛ばされていただろう。澱の呪縛。

 買い物をするとき、それが生活に必要だからというより、買えば、憧れの素敵な自分になれる気がするから買う、ということがとても多かった。
 これをもっている自分はいまの自分と違って、雑誌のなかでほほえんでいる芸能人のように素敵になれるだろう、同じようになれるだろうという淡い幻想を買っていた。
 本当に必要なものだけ買っていますか、必要ないものまで買ってしまってますか。
 医者に聞かれてもよく分からなかった。それらはすべてが私に必要で狂おしいほど切実だった。いけてて素敵な自分になること以外に人生に必要なことなど無いと思っていた。
 服もバッグもフランフランの置き物も、もちろん、買っただけで憧れの人になんてなれなかった。
 海水を飲んでいるように買えば買うほど私ののどは渇いていった。

 生活を維持するというのは大変な仕事だ。男性は、一生、生活をしたことがないまま死ぬ人も多いだろう。
 午後から雨の予報だから午前中にせんたく物は干す。青じそやみょうがはめんつゆにつけて保存する。こっちのスーパーの何曜日には肉が安く、あっちのスーパーは野菜が安い、冷凍食品三割引の日は何日だ。押し入れやクローゼットの収納ボックスはキャスターがついてると便利だ。この種類の汚れにはこの洗剤だ。ゴミの分別方法。電気代の支払い期日。そういうものすべてで生活は成り立っている。

 輪廻転生があるとすればの話だが、3ヶ月に1回別人に変身する人間の新陳代謝そのものが、その予期、予行演習であり、メタファーだという気がする。
 はげた木が葉っぱをつける。
 雨が海となって水蒸気になってのぼっていってまた雨になる。
 原子は質量保存の法則により消えることも増えることもなくただ結合式を変えるだけである。
 世界でただ人間の生だけが一回きりなのだろうか。

【ホラリー占星術鑑定サンプル】転職すべきでしょうか?

 先日、下記のようなご依頼をいただきまして、ホラリー占星術でのリーディング(鑑定)を実施させていただきました。
 実際にクライアント様にお届けするリーディング文のサンプルとして格好のケースと思われますので、許可を取って掲載いたします。

【クライアントA様からのご相談内容】
 アルバイト先の職場の待遇が近々悪くなり、手取りが減ります。これを機会に以前から計画していたように独立・開業をすべきでしょうか、それとも職場は辞めずに掛け持ちなどしながら続けるべきでしょうか?

【リーディング結果】
 以下の内容をメールでお伝えいたしました。

 大変お待たせしました。リーディングの結果をお伝えします。
 結論を簡潔に申し上げますと、「行動は是非とも慎重に」といったものです。

 Aさんはいまのお仕事内容には心身ともに疲れを感じているようですね。おそらく大部分が毎日同じルーティンワークのような感じで、とてもAさんの豊かな知的好奇心や美的センスを刺激するものではなく、飽き飽きして退屈しきっている、そんな印象を受けます。このご相談もかなりお悩みになったすえのものとお見受けします。
 Aさんの気持ちはほとんど新しいお仕事のほうに向いているご様子ですね。ただ気持ちばかりがかなり先行ぎみで、具体的なビジョンや計画がまだまだ十分でないように見えます。悪い言い方でいうと浮き足だったものを感じます。
「急いては事を仕損じる」という言葉がありますが、あせって動いてしまうと理想と現実の落差に足をとられて、深い失望が待っているということになりかねません。それくらいは百も承知と言われそうですが、やはり今よりかなり経済的にも感情的にも不安定になってしまうようです。開業に向けて気力ばかり消費した結果、プロジェクトそのものが暗礁に乗り上げてしまう危険もあります。
 もうしばらく(具体的にはあと3ヶ月半ほど)は事業計画書の練り直し、資金調達や根回し作業など下準備に専念したほうが無難でしょう。ただ、多少の波乱や苦労、試練は覚悟のうえで、ここで思いきって新しい環境に飛び込みたい、冒険に賭けてみたいというのなら、そういったご選択もありかと思います。というのも実のところ、艱難辛苦やクライシスに見合う何らかの見返りもあるであろう暗示も確かに存在するのです。(ただし物質ではなく、人間的成長のような精神的なものです。)
 どの道を行くのが正解なのか? それはお持ちの人生観にも大きく左右されます。選択はAさんしだいです。

 ただ今のお仕事を続けていても今後劇的に環境や待遇が良くなるかといったらそうではなく、安定はしているのだしまぁまぁ良い…くらいの状態が続くようですね。もしも開業は先延ばしにして、掛け持ちだったり、あるいはメインのバイト先の職場を変えることにしたとしても、今はあまりにも大きくかけはなれた職種にはしないほうが吉と出ています。

 素晴らしい夢に向かっているAさん、私としてもぜひ背中を押してあげたいところだったんですが、天意としてはこのような示しが出ました。すいません! でも粘り強く取り組んで是非事業を成功させてほしいです。心から応援しています。

【結果】
 クライアント様にお伝えしましたのは以上の文までです。
 A様の開業意欲を削ぎかねないチャートが出たので慎重にお伝えしましたが、「準備不足は自分にも心当たりがあった。むしろ今やるべきことが明確になってとても良かった」と前向きにご満足いただき、安心しました。
 人生には、あとから振り返ってみると結果よりもプロセスに意義があった、失敗したけど多くを学んだということが数多くあります。リーディング結果を受けて、最終的にはどの道を進むのか。自分の心が一番良く答えを知っているものと存じます。
 またいつでもご相談お待ちしております。
 料金など鑑定のご案内はこの記事の末尾にあります。

【占断プロセス・根拠などを一部ご紹介】
 ここからはホラリー占星術の勉強者向けの専門的な話になりますので、興味のあるかたは読んでください。

 アセンダントは24度。ロード1はみずがめ座の水星で5ハウスでした。
 1年以上前にも起業についてご相談頂きましたことがあり、成熟したアセンダント度数もよくよく悩んだ末のご相談であることがあらわれています。

 転職すべきかどうかのホラリーチャートでは現在の仕事はロード10、新しい仕事はロード11で見ます。
 ロード1もしくは月と、ロード11のアスペクトで転職の可否を診断します。ロード11はうお座の月でペリグリン(不安定)かつ6ハウスという不吉なハウスにあり、新月直前でアプライのコンバスト、またロード1ともノーアスペクト
 レセプションでも月は水星のデトリメント(障害)かつフォール(転落、失墜、失望)で、多難な前途を予期させます。
 独立のナチュラルルーラーの天王星も8ハウスです。アセンダントからアスペクトを取らない(見えない)2、6、8、12ハウスは縁起が悪く、「見通しが悪い、見落としている、盲目的な状況」も意味します。
 魚座の6ハウスに月、太陽、金星、海王星が集中しステリウムになっていることから、苦役のような退屈な日々から逃れるために開業を夢想しているような、地に足のついていないシチュエーションが浮かび上がってきます。よって、失敗するならば理由は具体性の欠如でしょう。

 ロード1が26度終わり付近にあることから、サインのイングレスを考慮し少なくとも3ヶ月半ほどは待った方がいいとの占断に至りました。

 また、進退を問うホラリーチャートでは、ロード1もしくは月をイングレスさせて、変化する品位の良し悪しで判断することもできます。
 水星はみずがめ→うお、やはりデトリメントでフォール。
 月はうお→おひつじ。両方ペリグリンではありますが、月とうお座は四性質説で両方cold & moistureで月は居心地が良いのです。おひつじだとhotとなるので月にはつらい場所です。よって状況は悪くなります。

 まるで宇宙が全力がSTOPサインを出しているかのようなはっきりとした結果になりましたが、唯一、そうでない余地を見せてくれたのが、月のラストアスペクト冥王星セクスタイルであったことです。
 冥王星は破壊と再生を司る凶星ですが、吉角を形成しているとなると、衝撃をともなうものの人間的成長がある、良い意味で生まれ変わるような体験を示唆しています。全体的に否定的な鑑定になってしまったので希望を持たせるためにも言及し、事実や判断材料は提示した上で最終的な判断はおまかせといたしました。

 最後になりますが新しい仕事の指示星は月となりましたが、クライアント様によりますと職種のターゲットは女性であるとのこと。成人・成熟した女性は月の象徴であり、相談内容を反映したチャートであることがここからも伺えました。

【ホラリー占星術の鑑定受付中】
 生年月日など個人情報なしでどんな質問もお答えできます。
「この恋は実りますか?」
「就職できますか?」
「試験に受かりますか?」
「なくしたものはどこにありますか?」
「このバッグを買ってもいいですか?」
 何でも聞けます。

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 ご入金前のご依頼には返信ができませんので、ご注意下さい。

 ※対面鑑定も出来ますが、現在は店舗に出勤がないため、交通費とお茶代を申し受けます。

 ※メールを返信しても、振り分け設定のせいか見落とされる方がいらっしゃいます。設定や迷惑メールフォルダの見直しをお願いいたします。

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